甘い訴訟対策は命取り、サトウは第2次訴訟で再逆転狙う 「切り餅訴訟」が残した教訓
しかし、その一方で、鮫島正洋弁護士--直木賞受賞小説『下町ロケット』に登場する、知財分野の敏腕弁護士・神谷修一のモデルと言われる--は、「第1次訴訟の上告受理申立を、最高裁は不受理としたのだから、大量証拠を審理していないことになる。したがって第2次訴訟では、大量証拠は審理の対象となるべきだ。第1次訴訟で最高裁において不受理となったことが、大量証拠を審理しない理由にはならない」と見る。
「証拠捏造」疑惑に対するプロの感覚
ところで、この訴訟は、知財分野の弁護士や弁理士といったプロのみならず、素人である一般国民の関心も引いた訴訟だ。
最近では沈静化したが、中間判決後、「切り餅」「訴訟」をキーワードにネットで検索をかけると、「証拠捏造」という単語を含む、知財のプロのブログがずらりと並んだ。普通に読めば、裁判官がサトウ側の証拠捏造を疑ったことをうかがわせる記載が、中間判決にはあったからだ。
素人がこれを見たら、「サトウは他社の製品をパクっただけでなく、裁判で証拠の偽造までやる会社なのか」とあっさり信じ込んでも不思議はない。内部統制の重大な欠如を、よりによって裁判所から指摘されたとも見える。
当然、サトウは「天地神明に誓って証拠の捏造はしていない」として、汚名をそそぐことを目的に、上告審に望みを託したわけだが、逆にプロからはこれがナンセンスだという批判を浴びた。
法律のプロの常識と素人の常識に乖離があるのは世の常だ。
「確かにサトウは判決文に証拠を捏造したと書かれたと言っていい。ただ、証拠捏造が争点ではないのであれば、それはあくまでサトウ側が立証に失敗したことを示すだけであって、それ以上でもそれ以下でもない。裁判は証拠で判断するものなのだから、出ている証拠で裁判官が捏造を疑ったら、裁判官はそれを判決に書く。後々、実際に内部告発でもあって、捏造の“事実”が明らかになれば、そのとき初めて問題になる」(内部統制に詳しい弁護士)というのがプロの感覚だからだ。