プロから見て、トランプは何が問題なのか 外交に対する無知は、あまりにもひどい

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逆に、トランプが失速し、クルーズが勝つ可能性はどうか。

これは、ありうるが、獲得した代議員の数はウィスコンシンの予備選を終わった後でも、トランプにはまだかなりの差でリードされているので、この第2のシナリオが実現する可能性もそれほど高くない。数字でいえば、クルーズは残りの総代議員数769人のほとんどすべてを獲得しないと過半数の1236人に届かないからだ。

一番可能性が高いのは、誰も過半数を獲得しないまま共和党大会を迎えるケースだ。決選投票の可能性もないではないが、その前に共和党内で妥協が図られ候補が一人に絞られるのではないか。その場合はトランプでなく、クルーズが共和党の候補となるだろう。トランプを大統領候補として立てることは、共和党にとってあまりにも危険すぎるからだ。

妥協することはクルーズにとってはもちろん、トランプにとっても悪くない。とくにトランプが今後も共和党内での影響力を維持することを重視するのであれば、このような妥協に応じるのが得策だ。予備選での善戦を通じて広範な草の根レベルの不満層を味方につけつつ、妥協に応じることで共和党の重鎮に貸しを作ることができるからだ。

その先、大統領の本選挙で共和党は勝てるか。民主党側の事情も見なければならないが、その問題はさておいて、トランプ現象が共和党に突き付けた問題は大きい。

ポピュリズムの台頭

過激な発言はトランプ独特のものであるにしても、それは例外的な現象として切り捨てることはできない。共和党の中で次第に増大する新しいポピュリズムの流れとして見る必要があると思う。

この流れは、前回の大統領選で注目されたティーパーティ運動で注目されるようになったものであり、その主眼は共和党の伝統的な保守主義に立ちつつ草の根レベルで拡大する不満を吸収し、代弁していくことにあった。

トランプの発言はまさにその代表格と言ってよい。その過激な発言は個人的なものであり、だからまた一時的かもしれないが、失業者や不法移民を排斥したい人たちが多く含まれている草の根レベルの不満を共和党として吸収していかなければならなくなっている。これは同党にとっての課題だ。

今回の大統領選に向けては、前述した妥協を図ることで、なんとか共和党のこれまでの伝統を維持する候補を選出できるかもしれないが、増大傾向にあるポピュリズムは次回の大統領選や中間選挙ではさらに大きな問題となるだろう。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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