アイアンの音を酒のつまみにしたいくらいだ 「チーム松山」しか語れない松山英樹論<前編>

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確かに、その通りだと私も思う。成績が悪かったときでも、大叩きしたときでも、松山が取材を拒否したことは一度もない。答える際のボキャブラリーも以前より格段に増え、答え方にも工夫や進歩が感じられる。

「こう答えたら、こういう記事になるということを、彼は毎日、記事を読み、自分でチェックして勉強していますからね」

もっと気になるのは、松山の英語力がどの程度まで進歩しているのかということだ。松山自身に尋ねると「いやあ、英語は全然ダメっすよ。だって、ボブさんがいると何でも日本語で聞いちゃうから英語は全然うまくならないっす」と笑って答える。

しかし、どうやらそれは松山なりの照れ隠しのようで、「彼の英語はすごく上達している」とターナー氏は証言する。

「彼は米ツアーにトライし始めた最初のころから、レストランでオーダーするときに自分で話そうとしていました。ゴルフ以外のこと、たとえば音楽のことや何かの出来事のことでも、インターネットで何かを見つけては『ボブさん、これ英語で何て言うの?』『これ、どういう意味?』と積極的に聞いてきて、どんどん覚えています。

でもゴルフのことには、やっぱり最初は慎重でしたね。最初の年はプレー中にルール委員を呼ぶとき、いつも私のヘルプを必要としていました。でも去年の半ばからは自分でルール委員とやり取りするようになり、今では全部一人でやっています。

年上の僕にリスペクトを払ってくれる

先日も同組の選手のボールがハザード方向へ飛んでいって見えなくなり、ハザードに入るところを目撃したかどうかとルール委員に尋ねられたとき、彼は自信満々に『イエス』と答えてうなずいていました。相手のボールがロスト扱いになるかどうかはヒデキの返答次第だったわけですから責任重大でしたけど、そういうときでも彼は英語で対応できるようになっています」

なぜ松山は英語の上達を求めているのか。米ツアーを戦う上で英語力があったほうが有利だと思うからか。それとも他に理由があるのか。ターナー氏は、こう見ている。

「ルール上のことなどを考えれば、有利に働くこともあるかもしれない。でも彼が英語を学ぼうとしているのは、ゴルフに役立つかどうかより、自分が今、アメリカに住み、アメリカに家も持ち、ここで生活をしているからという自然な理由だと思うんです。それは、ゴルフ以外のことというより、ゴルフ以上のことなんだと私は思います」

そんな松山とともに過ごす時間の中で、ターナー氏が一番うれしいと感じるのは、毎朝、顔を合わせる瞬間なのだそうだ。

「彼は毎朝、英語で『グッドモーニング』とあいさつしてくれる。でも単に『グッドモーニング』で終わらせるのではなく、必ずその後ろに『グッドモーニング、ボブさん』と私を名前で呼んでくれる。彼が自分よりずっと年上の私に対してリスペクトを払ってくれていることが、最後にくっ付く『ボブさん』に感じられるんですよ。だから私は、彼と顔を合わせる朝の一瞬がいちばん好きです」

ギア担当の藤本氏に対しても、マネージャー兼通訳のターナー氏に対しても、松山は尊敬の念、感謝の念をさりげなくにじませている。だからこそ、チーム松山の面々は親身になって松山を支える。そんな温かいサポートを受けながら、松山は間もなくオーガスタへと乗り込んでいく。

舩越 園子 在米ゴルフジャーナリスト

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ふなこし そのこ / Sonoko Funakoshi

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。
 

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