美根:金日成は若い時に平壌から外へ出て、満州でソ連軍の指導の下で抗日ゲリラに参加した。彼らは日本統治下の朝鮮半島に、「独立を取り戻す」「人民の生活を取り戻す」という目標で、ゲリラをした。
自分たちでどこまで望んだかはわかりませんが、当時の選択肢は国境を接するソ連しかなかったので、自ずと共産主義を選ばざるをえなかった。もし隣に米国があったら、それこそ明治政府的な方式の国になったかもしれない。おそらく、まったく違う体制になっていたでしょうね。
木本:たまたま金日成がご近所にあるマルクス主義に出会ってしまった。
美根:歴史的にそういう状況でした。もっとも金日成も初期のころは安泰とはいえなかった。独裁体制にありがちな、権力闘争があった。元から誰もがひれ伏すような権威があったのではなく、政敵と闘って勝ちとった権力と権威なわけです。そうした闘争は1970年ころまで続いていました。
木本:そうなんですか! 朝鮮戦争が終わってすぐに、独裁体制を築いたと思っていました。
美根:北朝鮮は、朝鮮労働党の指導で建国をし、国土を復興させ、経済を発展させていった。みんなで国づくりをし、指導層も確立していった。そういう大きな考えで長らく進んできました。そこに親子の関係、家族の関係という、儒教的な考えが加わって、強固になっています。朝鮮では、儒教的な要素は中国以上に強い。そこに金家が続いている理由の根本があるとみています。
金正恩は若者を大切にしている
木本:息子の金正日、そして現在の金正恩と世代を経るにつれ、だんだん北朝鮮はおかしくなってきたような印象があります。この印象は正しいのでしょうか。
美根:難しい質問ですね。金正恩は、2013年に父・正日の妹婿で血の繋がらない叔父である、張成沢(チャンソンテク)を粛清しました。それ以外にもたくさんの指導者を処刑したので、とんでもないトップという印象が強いかもしれません。
こうした粛清を行ったことは事実ですが、それですべてかと言えば、そうでもない。
あえていえば、これまでの指導者にはない、「良い面」もあります。例えば彼はスポーツが大好きです。国民を奮い立たせるのにとてもいいもの、と考えているようで、非常に力を入れている。平壌市内には競技ごとにサッカー、陸上競技、卓球などの専門競技場が軒を連ねています。
木本:総合運動場じゃないんですね。
美根:そうです。日本のスポーツ振興など、及びもつかない力の入れようです。街中では、企業がお昼休みに卓球やバレーボールなどを奨励して、各会社で対抗して試合をしている。課長さんは、自分のチームが負ければ、それほど大きなものではありませんが、人事評価として罰点がつく。運動が得意じゃない課長さんは肩身が狭いようです。日本人の眼に映りやすいのはワールドカップなどでサッカーの北朝鮮代表が意外にもかなりの強豪であることです。その根底には国家レベルの訓練・準備・投資があり、そこには相当の力を入れています。
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