「求人詐欺」は、なぜ野放しにされているのか 労働市場は悪質な詐欺によって機能不全に

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しかし、法律上は、求人募集をするにあたって虚偽の記載をすることは、一応禁じられている。職業安定法5条の3第1項では「業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」とされており、今回のエステの求人のように曖昧なものでは「明示」したことにならない。

また、「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」(職業安定法65条8号)には罰則があるとされている。しかし、この法律によって摘発された例は、ほとんどないのが実情だという。労働問題に詳しい旬報法律事務所の佐々木亮弁護士は、次のように話す。

「たとえ契約と求人票が違ったとしても、『求人票を出した後に事情が変わった。虚偽のつもりはなかった』という使用者の弁明が可能になってしまうという実態があるため、今の条文のままでは適用されにくい。『求人詐欺』を抜本的に解決するには、違法性について形式的な判断を可能にする立法が必要になるだろう」

契約と同条件でなければ求人票を出せないという形にすれば解決するようにも思えるが、そうすると「採用方法の柔軟性に悪影響を与える面がある」(佐々木弁護士)ため、なかなか難しいという。しかし、そうした事情があるとしても、あまりにも求人票を悪用する企業が多すぎるのではないか。このままでは、求職者はよりよい企業を合理的に選ぶことができなくなってしまう。

ギャンブルのような世界になっている

「『求人詐欺』では、新卒や転職者が合意したはずの労働条件が、実際の労働条件とは異なっているわけだが、これは企業の一方的な『契約』の書き換えだ。就職にしても転職にしても、仕事を求める人は、ウソか本当か分からないまま、一か八かで応募してみるしかない。労働市場だけが、こんなギャンブルのような世界になっているのは、明らかにおかしい」(今野氏)

新しく住む部屋を借りる時を考えてみよう。不動産仲介サイトの「物件情報」に、「駅から3分、家賃8万円」と書かれていたから、内見を申し込んで入居を決めたのに、実際の契約をしてカギを受け取ったら、駅から10分で家賃が10万円という別の部屋だったとしたら、あなたは当然クレームをつけるはずだ。こうした悪質な虚偽情報を掲載したオーナーは、即ブラックリスト入りだろう。しかし、労働契約ではそうならない。

なぜかといえば、入社後にすぐに辞めてしまえば、履歴書に傷がついてしまい、その後の転職活動に大きな悪影響を与えるからである。企業は、こうした労働者の事情も全て分かった上で、今日も虚偽の求人票を出し続けているのだ。本来であれば、「よりよい労働条件を示す企業に人が集まり、劣悪な企業は見捨てられて淘汰される」というのが、労働市場のあり方のはず。ところが、今の日本では「求人詐欺」によって妨害され、機能を失っている。それが現実なのである。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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