「ネットで資金調達」はアニメの新潮流になるか 消費者有利の時代を逆手に取った作品づくり

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――日本の場合はまだ「支援」なんですかね。おカネを出して「お任せします」と。海外ではおカネも出すけど、口も出すぞと。

リスキーな試みの集合体

本条:僕は「文句を言わせる」のもエンターテイメントだと思うんですね。野球とかでも好きだからこそ文句を言う。それもエンタメだと思う。海外のほうがそれを含めて「楽しむ」という意識が強いんじゃないかな。

そういうことを含めて、クラウドファンディングはエンターテイメントになっていると思うんですね。それで届いたものが期待外れだとか、思ったよりよかったとか。そうしたリアリティーゲームみたいな感じで楽しんでいるんじゃないでしょうか。

日本で言うなら、昔あったテレビ番組の「マネーの虎」ですよね。出資者は色々文句を言いながらおカネを出す、みたいな。それを見ている視聴者も「資本家の気持ち」になって楽しむことができるという。

――なるほど。

本条:『CHIKA☆CHIKA IDOL』って、「どうせならこういう風にやりたいよね」っていう、普通だとちょっと躊躇しちゃうようなリスキーな試みの集合体なんですよ。フル3DCGというのもそうだし、クラウドファンディングもそうだし、アニメ発のオリジナル企画というのもそうだし。地下アイドルものというテーマもそうだし。

気持ちとしては、「今受けるか受けないか」よりは、「5年後10年後にはこうなっていくんじゃないか」ということを意識して企画をしています。アイドルものなのに3DCGアニメというのは錦織監督のたっての希望ですし。なかなか他社ではできないだろうなと。

――失敗したらどう責任取るんだという話になりますもんね。

本条:失敗したら、またスポンサー探しの旅が始まりますね。(笑)スポンサー企業を探す可能性もあるし、クラウドファンディングにリトライするかもしれない。今後のロードマップが決まっていないのも、また楽しいんですよ。

インタビューを終えて

クラウドファンディングの仕組みは、思ったよりもリスキーだ。僕は消費者に合わせることに意欲的な本条さんと違い、基本的には「消費者がつくり手よりも有利な立場に立つ」ということに危機感を覚えている。

掲示板やまとめサイトで、ネット上の匿名達が「僕がいちばんガンダムを上手く使えるんだ」とばかりに、作品は無残に切り刻まれ、命ある個別のキャラクターたちが、平凡でワンパターンの属性をもった存在に切り分けられてしまう。そうした作り手の意思が尊重されない悲しい光景を、アニメやゲームが好きな人なら幾度となく目にしたはずである。

しかし、一方で、ファンに愛されて成長した作品もある。決して綿密ではなかった設定が、ファンによって埋め合わされ、作り手が思いもよらないほどにキャラクターたちが存在感を増していく。そんなこともある。

クラウドファンディングでは、そうした「受け手側による、作り手へのリターン」が、「出資」という行為により、より一歩踏み込んだ次元で展開する。そのことに僕は恐ろしさを感じるが、本条さんは楽しさなどを感じているのだろう。

その一方で、完成済みのDVDなどを販売するというコンテンツビジネスが衰退し、その場の体験を共有するようなコンテンツが発達していくという考え方は僕も同意するところである。

そうした時代の動きは、決してアニメやゲームの業界だけではなく、全てのコンテンツ産業が直面する変化である。その変化について行けるか行けないか。ついて行くしかないとすれば、一体どのようについて行くか。そのための覚悟をどのように背負うか。それは僕自身も例外ではない。そんなことを思い浮かばせるインタビューだった。

赤木 智弘 フリーライター

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あかぎ ともひろ / Tomohiro Akagi

1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」を執筆し、話題を呼ぶ。以後、貧困問題などをテーマに執筆。主な著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』などがある。

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