週刊文春「元少年A」直撃記事が投じたもの 少年法が元少年を永遠に守るわけではない
「そもそも、今回の記事のように少年審判などが終了した後の報道には、少年法61条は直接適用されない。過去に、少年時代の犯罪を成年後に実名報道をすることが少年法61条に違反するかなどが問題となった事件があったが、最高裁調査官は、少年法61条について『少年審判などが終了した少年の過去の犯罪歴についての推知報道は禁止していない』と解釈している。少年審判では、少年の抱える問題点を明らかにするため、少年の性格や全生活史、家族のプライバシーにかかわる事項などを率直に述べてもらう必要がある。この見解は、少年法61条はあくまでも事件の捜査や審理などの手続の最中に推知報道による悪影響から少年を保護するための政策的な規定であるとの考えに基づいている」(伊藤弁護士)
この考え方には、納得できる人が多いはずだ。ただし、少年法の研究者などは、「少年審判などが終了したとしても、推知報道は禁止されている」という考え方をする人も多い。この見解は、少年には、成長発達の途上にある人格がそのまま認められ、将来成人として完全な自己決定ができるようになることを求める「成長発達権」が少年法により保障されていると解釈する。
推知報道は、更生を阻害させるため、たとえ審判などが終わっても、少年法により禁止されるというのだ。
伊藤弁護士は、この「審判終了後も少年法が適用される」という考え方を真っ向から否定する。
少年の「成長発達権」を認めるべきなのか
「こうした広い解釈は、憲法21条1項が保障する『報道の自由』を侵すおそれがあるうえ、必要性にも疑問がある。日本国憲法が制定される前の旧少年法では、推知報道をした者に刑罰を科していたが、『報道の自由』を保障する日本国憲法が制定されたことを受け、現在の少年法では罰則が削除されている。改正の経緯からすれば、適用対象を広く解釈すべきではない。また、少年審判などの終了後の推知報道が少年法に違反しないとしても、名誉権やプライバシー権を侵害する場合には違法となるから、権利侵害があればこちらで救済できる」(同)
「成長発達権」を唱える考え方は非常に有力だが、裁判実務の基準となる判例においては、真正面から認められているものではない。1998年に堺通り魔殺人事件で当時19歳の少年の実名報道がなされたが、大阪高裁は「違法」と判断しなかった(少年側は最高裁に上告したが、後に取り下げている)。ましてや、現在の「元少年A」氏はすでに33歳と立派な成人であるから、なおさらだ。
ただ、伊藤弁護士が指摘するとおり、名誉権やプライバシーを侵害していれば「違法」となる。今回の記事はどのように考えられるのか。まずは名誉権について考えていこう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら