週刊文春「元少年A」直撃記事が投じたもの 少年法が元少年を永遠に守るわけではない

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今回の記事では、写真に写っている人物が神戸連続児童殺傷事件の犯人であること、手記の『絶歌』を出版して以降の居住地、住んでいた部屋の間取り、家賃などの情報を公開している。また、記事文中の写真の背景から「元少年A」氏が住んでいた具体的な場所が、ブログ記事で特定されてしまった(現在「元少年A」氏は転居したという)。

赤で囲った部分から、場所の特定につながった

「転居履歴などの詳細な情報を公表する必要があったのかは疑問だ。実際に、今回の記事の内容と写真をもとにして、インターネット上では元少年A氏が住んでいた建物まで特定されてしまっている。元少年A氏が『無名の一市民』でないとしても、必要以上にプライバシー権を侵害してはならない。報道機関としては、インターネット上で特定されることは当然予測すべきであり、以前の住所が特定されないように配慮すべきだった」(同)

記事中の「元少年A」氏の写真の背景には、一応薄くぼかしがかかっていた。しかし、ブログ記事に添付されたグーグルストリートビューのキャプチャ画像を見てみると、街路樹や歩道の柵などが一致していることが分かってしまう。現在のネットサービスの状況等を踏まえると、場所を特定させないようにするには、背景などに完全なぼかしを入れるといったことまで必要だったようだ。週刊文春の記事の書き方には、以上のような問題点もあったといえるだろう。

「元少年A」の肩書きで表現を続けられるか

しかし、それ以上に問題なのは、やはり『絶歌』が出版されたことにより、「元少年A」氏の立場にも多大な影響を与えたことにある。このことは、名誉権に対する法的分析からも明らかだ。『絶歌』の出版元である太田出版は、昨年6月に「彼の手記には今にいたるも彼自身が抱える幼さや考えの甘さもあります。しかしそれをも含めて、加害者の考えをさらけ出すことには深刻な少年犯罪を考える上で大きな社会的意味があると考え、最終的に出版に踏み切りました」とコメントしていた。これはこれで、1つの意見ではあるが、「元少年A」氏の暴走を後ろから押すような結果になる可能性については、どれほどの思慮があるのかは見えてこない。

「元少年A」氏の実名報道は、学説上はともかく、裁判実務の考え方からすれば、少年法61条には違反せず、場合によっては適法となる。本名を晒されることなく、「元少年A」の肩書きのままで表現活動を続けることは、完全に保障されているわけではないのだ。誰が見ても適切な更生が実現されているとは思えないこの状況で、「元少年A」氏に手記を書かせることにより公人に近い立場にさせた太田出版には、重い責任があると言わざるを得ない。
 

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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