週刊文春「元少年A」直撃記事が投じたもの

少年法が元少年を永遠に守るわけではない

最高裁は、名誉毀損にあたる事実があったとしても、それが①公共の利害に関する事実に関する報道であり、②専ら公益を図る目的であるならば、③これらが真実であることの証明があるか、少なくとも、そう信じるにつき相当の理由があった場合、名誉棄損罪は成立せず、不法行為責任も負わないと判断している。

事件発生から約18年、医療少年院を退院してから約11年経過しており、その間も社会復帰に努めていたことを重視すれば、「無名の一市民」である「元少年A」氏について報道することは、要件①、②を満たさないと考えることもできる。しかし、「元少年A」氏自身が、2015年6月に手記「絶歌」を出版したことには批判が噴出。「元少年A」は更生したのか、手記の出版を規制すべきではないか、といった社会的な議論が巻き起こったことは記憶に新しい。

文春編集部は、「『元少年A』氏は、出版物を自ら世に問い、ベストセラーの著者となった人物である」と現在の社会的立場を指摘し、「純粋な私人であるとは、とても言えない」と主張している。伊藤弁護士も「元少年A」氏は、もはや「無名の一市民」とはいえないと考えるという。こうした考え方を前提として、名誉権侵害について検討すると、どうなるのか。

元少年Aの文春記者への行為は犯罪の可能性

記事の見出しからも、緊迫した取材の状況がうかがえる

「今回の記事は、元少年Aが本当に更生したのかという問いのもと、医療少年院における更生プログラムの改革や、犯罪手記の出版規制などを提言するものであるから、①も②も満たすだろう。また、複数の情報源によって入念に裏付けを取っているという記事内容を前提とすれば、③も満たすといえそうだ。このような提言は実名報道でなくとも可能だが、今回の記事は、たとえ実名報道であっても、現在の犯罪報道として適法になる可能性もある。記者の目の前で自転車を地面に叩きつけるなどの元少年A氏による一連の行動は、暴行罪(刑法208条)にあたる可能性があるからだ。容疑者の実名報道には反対論もあるが、一般的には許容されている」(同)

本当に更生したのかという疑問を呼んだのは、やはり「絶歌」の出版、及びその後の一連の行動であることは否定できないだろう。「元少年A」氏は、表に出ずに平穏に暮らすことを自ら望まず、社会に自分の存在を強調することをあえて選択した。それは同時に表現者としての立場に身を置くことになり、結果としてメディアの批判対象になりえる「公共の利害」を作り出したわけである。

では、プライバシーの侵害はどうだろうか。結論からいえば、こちらについては、やや課題がありそうだ。

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