(第32回)イベントを再点検してみよう・その1「印象のいいセミナー/印象の悪いセミナー」

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 これらのコメントから導き出されるキーワードは、(1)少人数、(2)十分な質疑応答、(3)社長参加、(4)(多彩な)社員参加、(5)自分参加(体感・グループワーク)だ。

 「少人数」と「十分な質疑応答」は、セットと考えてもいいだろう。大勢の学生が参加するセミナーで、みんなの前で挙手をして質問をすることは、かなり勇気がいるものだ。質問時間には挙手をすることなく、セミナー終了後に採用担当者を捕まえて、会場の隅で個別に質問する学生の姿を必ず見かける。それも1人や2人ではない。さらには、質問している学生の横からそのやりとりを聞いているだけで、結局自分では何も質問しないまま帰ってしまう学生もいるくらいだ。それに対して、「少人数」であれば、質問に気後れすることもなくなるし、数多くの質問に答えてもらえるということになる。では、「少人数」とは、何人くらいのことを指しているのだろうか。学生のコメントから類推するに、10人以下から、最大でも30人といったところではないだろうか。1回あたりの収容規模を「少人数」にするということは、開催回数を増やすことを意味する。企業としては手間と時間がかかることではあるが、互いにコミュニケーションが深まり、確実に企業と学生の「距離」を縮めることができる。

 社長あるいは役員クラスが直接学生にビジョンや展望を訴えるのは、仮に全く同じ内容であろうとも、採用担当者が説明するのとでは天と地ほどの差がある。やはり「重み」が違うのである。また、社長の参加は、新卒新入社員に対する企業の期待度の意思表示でもある。社長をセミナー・会社説明会に参加してもらえるよう調整することは、企業規模が大きくなればなるほど大変なことであることは理解できる。「少人数」制セミナーに毎回社長が参加するなど、論外であろう(ただし、実践している会社がないわけではない)。だが、大規模なセミナーでの1回や2回の参加であれば、調整も可能ではないだろうか。なにしろ毎年4月1日の入社式は調整できているのだから。ぜひとも、トップ自ら学生に熱く語りかけていただきたい。

 採用担当以外の「社員」をセミナーに参加させることに否定的な企業もある。「多忙な現場の理解が得られない」「話す内容によっては、学生にマイナスイメージを与えかねない」というのが主な理由である。前者については、トップダウンによる新卒採用への取り組み・意義を全社に浸透させることが必要であろう。後者については、もちろん人選も必要ではあるが、もっと社員を信用すべきだ。学生が入社後の仕事をイメージするには、やはりそれぞれの現場の社員のリアルな体験談や夢が不可欠であり、キャリアビジョンまで考慮するのであれば、若手社員だけでなく、40代、50代の社員の参加も必要であろう。さらに、より身近な立場ということでは、内定者の活用も効果的である。

 最後の「自分参加」は、企業からの一方的な説明を受けるだけの講演形式のセミナーが圧倒的大多数であることから、グループワーク形式のセミナーが印象に残りやすいという面も否めない。だが、その会社のセミナーに「参加」したという感覚・意識は、講演形式とではまったく異なってくることは確かだ。また、就職サイトや採用ホームページ、入社案内といった活字メディア、あるいはただ映像を見るだけのビデオでは、到底理解できない部分は必ずある。それは、仕事はすべて自分1人で完結できるものではなく、必ず違う立場の人間が絡むからこそ生じる、「対立」「交渉」「協力」「補完」といった関係性の理解である。業界、職種特有の関係性を理解してもらうこと、あるいは醍醐味に共感してもらうことこそが、志望度アップには極めて効果的である。

 なお、余談ではあるが、「ペットボトルのお茶を用意してくれた。お茶が欲しいというわけではなく、会社の気遣いに感動した」「一人一つ水が用意されていて、暑い日だったのでよかったです」といった飲み物についてのコメントの多さも目についた。こちらはすぐにでもできることだろう。水一杯で印象に残るのであれば、安いものだ。

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