ホンダ「NSX」が価格2倍で復活を遂げる理由 スポーツカーの存在意義はどこにあるのか
新型NSXに限らず、ここ数年の日本車メーカーは新型スポーツカーを相次いでデビューさせている。2013年にトヨタ自動車が「86」を投入したのを皮切りに、2015年はホンダ「S660」とマツダの新型「ロードスター」というオープンスポーツカーが世に送り出された。日本のスポーツカー市場が、にわかに活況を呈している。
だが、つい最近の歴史を振り返ってみれば、あらゆるメーカーからラインナップされていたいわゆるスポーツカーが、マツダ・ロードスターを除いて全滅してしまった時期もあったことに気づく。
格好よくて、速いクルマの出現
「シルビア」(日産自動車)、「プレリュード」(ホンダ)、「セリカ」(トヨタ)、GTO(三菱自動車)、「RX-7」(マツダ)。親しみのあるこれらのスポーツカーブランドは、すべて過去のものである。20世紀末に生じた日本におけるスポーツカーの沈没。その最大の理由は、スポーツカーでなくても格好よくて速く走れるクルマが出現してしまったからだ。
かつて自動車は、背が低くて小さくて平べったくなければ、物理的に安全に速く走ることはできなかった。そこにスポーツカーの存在意義があった。ところが自動車技術の発展で、背が高くてもそこそこスポーティに走れるクルマが出てきてしまった。
カギとなったのは電子制御技術だ。車高が高くてもロールしないクルマは、昔からサスペンションの設定次第で造ることが可能だったが、車高に対して車幅が狭いと、急転舵をしたり、縁石につまずいたり際に転覆する可能性が高い。ところが20世紀末に急速に進化したスタビリティ・コントロール(車両安定制御)やABS(アンチロックブレーキシステム)などの技術は、各タイヤに加わる力を個別に制御するという、どんな優れたドライバーにも成し得ないことを実現し、そうした車高の高いクルマの不安定挙動を排除することに成功してしまった。
背が高くてもカッコよく見えるデザインや、自動変速でも速く走れるトランスミッション、ミニバンのような構造でもしっかりしたボディなどを実現する技術も、1990年代後半以降に一段と進化。自動車メーカーはもはや、頑張って背が低くてコンパクトなクルマを作る必要がなくなってしまった。
典型はBMWだ。「スポーツ・アクティビティ・ヴィークル」という呼び名を発明してクロスカントリー車にスポーティな性格を与え、顧客層を大幅に拡大することに成功した。BMWは巧妙に電子制御を利用することで、クロスカントリー車では常識だったいわゆる副減速機を排除し、4WDでも車高を低くしてスポーティなデザインを実現してもいる。
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