資生堂「子育て女性に優しい」の先にあるもの 女性活用ジャーナリスト・中野円佳氏に聞く 

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中野円佳(なかの まどか)/2007年に日本経済新聞社入社。第一子の育休中に立命館の大学院に通い、修士論文を基に、14年に『「育休世代」のジレンマ』を出版。15年4月に日経を退職し、人事コンサルティング会社のチェンジウェーブに在籍。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。 15年に第二子を出産(撮影:尾形文繁)
2015年11月9日の朝、ツイッターは「資生堂」というワードで炎上した。NHKで、“資生堂ショック”と題する、育児中社員の働き方改革が特集されたからだ。
賛否両論を巻き起こしたのは、育児を理由とする時短勤務の女性社員の扱いについて。同社は、百貨店などのカウンターで接客販売を行う美容部員のうち、平日の早番シフトに入ることが慣例化していた育児中の時短勤務社員に、店頭が忙しくなる土日や夕方の遅番シフトにも入ってもらうよう要請したのだ(週刊東洋経済の関連記事はこちら)。
「女性に優しい会社」の代名詞たる資生堂が踏み切った、一見女性に厳しい改革。これは、他社に先駆けて仕事と育児の両立制度を整えてきた同社が抱える、どのような課題の突破口となったのか。『「育休世代」のジレンマ』の著者で、女性活用ジャーナリストの中野円佳氏に聞いた。

両立支援制度を充実させただけでは不十分

――改革に踏み切った背景として、資生堂はどういう課題に直面していたのか。

2011年、厚生労働省出身の岩田喜美枝副社長(当時)に、インタビューしたことがある。その際、「(仕事と育児の)両立支援制度を充実させた結果、働くための制度ではなく、女性が休むための制度となってしまった」と、それをどう脱するか考えておられた。今回の働き方改革は、資生堂が当時からの問題意識を実行に移したもの、と理解している。

――両立支援制度が「働くための制度ではなくなってしまった」理由とは。

これは、資生堂だけではなく、多くの日本企業が抱える問題。育児中の社員の両立支援だけを進めて、ちゃんと成長機会を与えるという観点が薄かった。

その結果、両立支援制度を使うと、いわゆる「マミートラック」(両立できるが、昇進・昇格とは縁遠い部署や役職に回されてしまうこと)に、はまってしまう。2人目を産みたいと思っていたら、いつまでも「戦力外」から抜け出せない。資生堂の美容部員の場合、育児中だからといって仕事の内容が変わるわけではないが、手を挙げにくい、管理職になりたいのになれない、という意味では、これに該当するのではないか。したがって、「今日はやれるけど、毎日は無理です」という、ケースバイケースの対応を可能にした今回の改革は、自然な流れだと思う。

ただし、資生堂が美容部員のシフト職場でケースバイケース対応ができるのは、時短社員が帰ったあとのシフトを、美容専門学生や美容部員OGからなる「カンガルースタッフ」(派遣社員)で補っているから。

現在、多くの企業は、こうしたフォローアップ制度を持たないまま両立支援制度を充実させているので、周囲にしわ寄せがいって、不満がたまりやすい構造になっている。それを解消するために、制度はあるけど、「使わないでね」と言ってしまっている。

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