金融改革で問われるリスクと創造性の調和--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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国際金融改革をめぐる米国vs.欧州・中国

ガイトナー案の代替案はあるのだろうか。他に国際金融システムのパラダイムは存在するのだろうか。中国の考え方は、わずかな金利しか受け取っていない貯蓄者に巨額の隠れた税金を課すことを意味している。これによって、国営銀行は企業部門を優遇するために補助金付きの金利で貸し出しができるようになる。

インド政府は金融危機を利用して自由市場の金利よりもはるかに低い金利で国債を発行している。ロシアが直面している問題は、金融システムの機能不全が原因で引き起こされたものである。ロシアの借り手は、国内で妥当な条件で資金調達ができないため、海外から外貨の調達をせざるをえず、その結果、ルーブルが暴落して、大きな負担を負った。

欧州は、預金業務から商業金融、高水準の投資銀行活動まで非常に広範な業務を行うユニバーサルバンキングモデルを維持したがっている。他方、米国の提案は金融システムに“システミックリスク”を引き起こしている預金金融機関を押さえ込むことを目的としているため、ユニバーサルバンキングは困難になる。そうした変更は、ユニバーサル銀行にリスクの高い投資業務を放棄するように圧力をかけることになる。

もちろんシティ・グループやバンク・オブ・アメリカ、JPモルガンといった米国の巨大金融機関も影響を受けるだろう。しかし、米国の金融システムにとって、ユニバーサルバンキング・モデルは、欧州やアジアとラテンアメリカの一部の国ほど重要ではない。

将来の銀行業務の形態がどうなるかは、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ・ファンドやヘッジファンドなどの広範な金融システムにとって極めて重要である。危機を恐れる気持ちは理解できるが、金融に対する新しくて創造的な考えがなければ、シリコンバレーが誕生することはなかっただろう。ではリスクと創造性の間のバランスをいったいどこで取ればいいのだろうか。

G20の議論は世界的な財政刺激策に集中していたが、本当の関心事は国際金融システムと規制に関する新しい哲学をどう選ぶかにあった。指導者たちが新しいアプローチを発見できなければ、金融の国際化は逆転し、現在の苦境を脱するのがさらに難しくなるだろう。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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