キャメロン氏は英国「最悪」の首相になるか EU離脱に絡んで国を割ってしまうリスクも

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史上最悪の首相になる確率はチェンバレン氏の方が確かに高かったが、少なくとも彼の政策は、その次のチャーチル首相によって国が破壊される前に反転させられた。もしキャメロン首相がEUとスコットランドに関連する両方の住民投票で敗北したら、彼の後継者はEUと英国を元の状態には戻せないだろう。

資本家や大企業にとって、EUにとどまるのは経済的な意味で不可欠だ。残留すれば5億人の消費者と、安くて質の高い労働力にアクセスできる。一方でナショナリストにとってEUは脅威であり、英国の主権が軽んじられて国境も管理下に置かれてしまう。

キャメロン首相による住民投票の呼びかけは(最初に出されたのは彼が野党にいたときであったが)双方をなだめようとしたものだった。

いつまでもラッキーではいられない

同首相が幸運なのは、経済社会や労働組合、議会、メディアさらに一般の国民の多くがEU残留を望んでいることだ。反面でEU離脱派は、信用に値する代替策をまだ提示できていない。

さらに、キャメロン首相は予想外の政治実績を示してきた。2005年に選挙運動を開始した際に彼が政党の党首になると見た人はほとんどいなかった。保守党が2010年に政権に返り咲いたとき、彼が首相1期目を全うするのは無理だろうと多くの人が思った。そして当のキャメロン氏でさえ、昨年の総選挙が過半数を獲得する大勝になるとは予想していなかった。

しかし、彼の勝利の流れがこのまま続く保証はまったくない。欧州から流れてくるニュースは厳しいものであり、最終的に住民投票の結果を左右してしまうかもしれない。難民危機やテロ攻撃、世界経済の停滞などはすべて、極端な排斥主義者を力づける材料になってしまう。

キャメロン首相の同調者によると、彼には2つのモードがあるという。自己満足とパニックだ。これまでのところ、彼は住民投票の問題に穏やかに向き合っているが、この状況は投票日が近付くにつれて変化していくとみられる。そして、政党と国家との選択を迫られて政党を選択し、結果として両方とも失ってしまったチャーチルと同じ文脈で、人々の記憶に残ってしまうリスクが高まっている。

 (C) Project Syndicate

マーク・レナード 欧州外交評議会(EFCR)理事

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マーク・レナード / Mark Leonard

英国のシンクタンク、欧州外交評議会(EFCR)の理事。創設メンバーの1人。

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