日本の銀行は大丈夫か、膨らむ一方の不良債権--リチャード・カッツ

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金融庁は旧大蔵省の過ちを繰り返すのか

経営不振に陥っているが救済の可能性がある企業に対して、融資条件を見直すのはある程度許されるだろう。倒産した場合にも融資の組み直しが行われる。しかし、なぜ金融庁は事実を隠蔽するのだろうか。こうした政策は、銀行の企業に対する融資姿勢を甘くさせるだけでなく、十分な貸倒引当金の計上を阻止することになる。その結果、旧ルールの下なら当然赤字を計上していたはずの地方銀行が架空の利益を計上しているのである。五味廣文前金融庁長官は、「政治家は金融当局に規律緩和を迫っている。それは最悪の事態である」と警告している。

こうした状況ではあるが、政治家が迅速かつ直接的にこの問題に取り組むかぎり、問題の処理は可能である。“失われた10年”の間にゾンビ企業やゾンビ銀行を守ってきたために経済成長は妨げられ、問題は深刻化した。しかし、債務償却と債務削減を行った結果、融資に占める不良債権比率は08年9月30日時点で3・0%という低水準にまで低下した。08年上半期に銀行は、不良債権償却よりも株価下落と資産担保証券の償却で大きな損失を計上している。

さらに、銀行の自己資本比率は大きく改善されている。1990年代には銀行は損失を吸収する十分な自己資本を持っていなかったため、不良債権を隠蔽していた。何年もかけて損失の処理を引き延ばした結果、最終的には不良債権を増やしてしまった。利ザヤが薄いことは収益力の低下か、場合によっては損失を計上することを意味するが、現在、銀行は損失を吸収するだけの資本を確保している。

90年代に政府が銀行に資本注入に踏み切るまで数年かかった。現在、与謝野馨財務・金融・経済財政大臣は銀行に資本注入する準備をしている。98年から03年初までは、銀行が不良債権の償却を回避できるようにするために資本注入を行ってきた。しかし、本来は03年半ば以降、小泉・竹中チームが行ったように銀行の不良債権処理を促進するために資本注入を行うべきである。幸い、銀行と企業に対する“護送船団方式”は10年前と比べると弱くなってきている。

もう一つよい状況がある。92年に銀行融資はGDPの108%に達していたが、現在、80%まで低下している。企業の債務総額の売上高比率も91年は34%だったが、現在は27%にまで低下していることだ。

Richard Katz
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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