男の介護「男介」に備えよう

評論家・樋口恵子氏①

ひぐち・けいこ 評論家。1932年生まれ。東大文学部卒。時事通信社、学習研究社、キヤノンを経て評論活動に入る。東京家政大名誉教授。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長。

世界一の長寿大国・日本。女の平均寿命は86歳、男は79歳です。人生100年時代というのもあながち誇張ではありません。1960年には男の平均寿命は65歳、女70歳でしたから、すごい伸びです。私は長く女性の立場から、社会問題や家族、介護の問題に評論活動を続けてきましたが、人生100年時代を迎えて、男女平等がいかに大切かをより痛感するようになりました。

 昔の女性はつねに母であり妻であり続けました。わかりやすい例でいえば、名古屋の「きんさん・ぎんさん」の成田きんさんは、嫁いで20年のうちに11人のお子さんを産んでいます。つまり結婚して20年間、当時の主婦というのは、いつもおなかが大きいか、お乳を出していたのです。ちなみに、きんさんの子どものうち5人が乳飲み子で亡くなっています。これが平均寿命50歳の女の一生でした。

団塊の世代は「男介の世代」

ところが人生100年時代には、出産し子育てを終えてからの時間がずっと続きます。女は子育てをする母の時間より、老夫婦かあるいは高齢となり一人でいる時間がずっと長いのです。青年期、中年期は生物学的にも性差が重要な意味を持っていますが、高齢になればその意味合いはずっと小さくなります。それより大事なことは、一人でもきちんとした食生活を送れるかどうかなど生活の自立、精神的な自立です。

家に帰ると「風呂、飯、寝る」としか言わず、家事を顧みなかった一人暮らしの男性高齢者がどんなに悲惨な生活をしているか。たくさんの具体例を見てきました。

家事をする能力は、誰かを介護するときにも必要になります。今や家族介護者の4人に1人は男性で、妻を介護する夫、親を介護する息子というのは普通の風景になりました。そこで家事ができないというのは致命的ですらあります。実際に介護が必要な高齢者の虐待、ネグレクト(放置)は男性によるものがほとんどです。

この3月、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」という組織ができました。孤立しがちな男性の介護者が声を上げ、情報の交換を始めています。私は数年前から、男性による介護の時代が本格化することを予見し、団塊の世代は「男介の世代」だと言ってきました。

男性に家事や介護のスキルを身に付けさせない習慣は、個人の潜在能力を阻害しているとも言えます。家事に男も女も関係ないとずっと言ってきましたが、まさに現実がそうなっているのです。

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