今から十数年前、東大の上野千鶴子さんらと雑誌の企画で「老後に倒れたら誰に面倒を見てもらいたいですか?」というアンケートを各界のリーダーに出したことがあります。ま、フェミニズムを研究したり主張している女性たちの企画ですから、当然のことながら回収率は高くない(笑)。それでも保守系を含め政治家はわりと回答がありました。反応がなかったのが企業経営者。唯一、作家でもある堤清二さんだけが経営者で回答がありましたが、ほかは一通も来なかった。
そのときあらためて感じたのは、企業というのは同じ価値観、同じ行動様式の人たちの集まりなんです。私たちが出したアンケートなんか、総務部や広報部が上に上げないのでしょう。経営者は何層もの階層の上に君臨して、女性や消費者の声とじかに向き合うことがない。でも政治家は有権者の声を直接聞く機会がある。経営者は、女性といえば秘書か自分の妻くらいしか具体的にイメージできないのかもしれません。
企業の犯した教育について三つの大罪
秩父セメント(現秩父太平洋セメント)の社長で財界リーダーだった故諸井虔さんと対談したことがあります。そのとき諸井さんは、企業は教育について三つの大罪を犯したと言っていました。一つは父親を家庭から取り上げたこと、もう一つは学歴主義、三つ目は拝金主義です。男性に長時間労働を強いて、養育や介護をすべて専業主婦の役割にさせてきたのは、日本の企業社会です。
もっとも、こう言うと企業側からは「うちは女性の活用に熱心です」と反論が来ることがあります。しかし現実をご覧ください。大手町や新宿で、妊婦服の女子社員が太鼓腹で歩いているでしょうか。小さな子どものいる女性にとって働きやすい環境にあるかどうか、ほかの先進諸国と比べれば一目瞭然です。妊娠すると、いまだ「自発的」に仕事を辞めさせられたり、中には「解雇された、退職勧奨された」というケースがあります。
日本が高齢化しているのは寿命が長くなったこともありますが、女性が子どもを産まなくなったからです。でもほかの国と絶対的な大きな差があるかといえばそうではない。数字でいえば小数点以下の数字です。その小さくて大きな差が生まれる理由は、女が職場を辞めないで子どもを産める、父親がもう少し早く帰れる、その二つです。これが変われば、女は産む。もし企業が社会的責任というのであれば、こうしたことにもっと自覚的であってほしいと思います。
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