【産業天気図・銀行業】金融市場混乱が収益を圧迫、08年度は「雨」模様

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2008年度は銀行収益にとってはかなり厳しい環境となりそうだ。まず、周知の通りの金融市場の混乱があり、政策金利の引き上げ期待は遠のいた。07年度スタート時には各銀行とも中期的に0.25%ポイント2回程度の追加利上げを前提に組んでいたが、ふたを開けれ見ると0.5%のまま現状維持。それどころか、08年の後半には世界的な景気減速を背景に米欧と協調利下げをせざるをえないとの見方も台頭している。こうした状況では、貸出先への利上げ交渉もままならず、預貸利ザヤはこれ以上改善が見込めない状況だ。せめてもの救いは金利低下により債券価格が反転し、債券の含み損がなくなってきたこと。しかし、預貸利ザヤの影響の方が大きいことはいうまでもない。また、手数料収益である役務取引利益も不調の見通しだ。個人向けでは投資信託や年金・保険等の販売手数料、法人向けでは私募債の引き受けやデリバティブ、シンジケートローンのアレンジの手数料がこれに該当するが、いずれも、資本市場が混乱していると、調達・運用とも見送りムードになるから、取引は低調となる。
 収益が上げにくくなっているうえに、株価の大幅下落による保有株式の減損処理も必至だ。国内の中小企業の倒産件数が増えていることによる貸倒引当金・貸倒償却などの与信費用も増える傾向にある。こうした兆候はすでに07年度の第3四半期から出始めているが、08年度も状況は悪化しこそすれ、改善する要因が見当たらない。
 また、いわゆるサブプライム関連損失の多くは07年度に計上されると見られるが、欧米の市場を見ると、米国の住宅ローンのデフォルト率の高まりは「サブプライム」から「プライム層」に広がりつつある。また、商業用不動産、レバレッジドローンの価格も値が下がり、典型的なバブル崩壊の様相となっており、信用の収縮が市場全般に起きている。つまり、「サブプライム関連」でなくても、信用リスクをとっている商品全般の値が下がっているので、08年度も引き続き評価損計上を余儀なくされる構造は続く。ちなみに、メガバンクグループのうち、みずほフィナンシャルグループ<8411>は今08年月期に傘下のみずほ証券の追加損失計上と業績の下方修正を余儀なくされる懸念もある。
 こうしたなかで、メガバンクグループ、大手行の収益、地銀優良行の収益は足踏み状態となろう。首都圏、中部圏など資金需要の比較的堅調な場所にあって、かつ、貸し出しシェアが拡大し、ボリューム効果で稼げる銀行の場合、若干の増益程度である。一方、地元企業の資金需要の鈍い地方に位置する地銀、なかでも相対的に競争力の弱い銀行は減益を余儀なくされるだろう。さらに、大口の貸出先の倒産により大幅減益や赤字転落する銀行が出る可能性もあり、再編機運が高まる。池田銀行<8375>と泉州銀行<8372>の経営統合の方針が2月に発表されたが、とくに、三菱UFJ系列の地銀は要注意である。
 一方、08年度後半には米国発の金融資本市場の混乱に加えて、日本の景気減速、とくに地方の経済の疲弊が重なる。銀行がストック商売による収益の安定した業種であることを考えれば、この状況は「雨」というべきだろう。
【大崎 明子記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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