人民元はIMF(国際通貨基金)が創設した国際準備資産であるSDR(特別引出権)に採用されて、主要国際通貨への道を歩み始めた。ところが、いきなり困難な状況に直面している。
IMFは2015年11月30日に、SDRの価値を決める通貨に人民元を加えることを決定した。SDRの通貨バスケットはユーロが創設されてから、米ドル、ユーロ、円、ポンドの4通貨で構成されてきた。
構成比は5年毎に見直されているが、今回は新しい通貨を加えるため、通常2016年1月に行われる変更を9カ月遅らせて10月から実施することとなった。人民元の構成比は10.92%で、日本円の8.33%を上回り、米ドル、ユーロに次ぐ重要通貨となった。
人口規模が約13億人と米国(約3億人)の4倍以上もある中国は、将来、経済規模が米国を大きく上回ることが予想され、人民元が米ドルの基軸通貨としての地位を脅かす存在となる可能性もある。
しかし、今年に入って上海株式市場では株価が再び大きく下落し、人民元の下落傾向が続いていることから、中国経済や人民元の先行きには悲観的な見方も出てきている。
1914年のドル危機
米ドルの基軸通貨としての地位は、第二次世界大戦後に、ドルが金との交換性を維持し、基本的に各国通貨はドルとの交換率を一定に保つという、ブレトンウッズ体制ができたことで確立した。
ドルの国際的地位は、第一次世界大戦時に米国が対外債務国から対外債権国となったことで著しく高まった。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間は、ドルとポンドが同時に基軸通貨として存在していたとされている。第一次世界大戦がきっかけでドルの国際的な地位は一気に高まることになったが、シルバーの「ワシントンがウォール街を閉鎖した日」(※)によると、その過程はそう簡単なものではなかったことが分かる。
※William L. Silber, “When Washington Shut Down Wall Street: The Great Financial Crisis of 1914 and the Origins of America's Monetary Supremacy” (2007) Princeton University Press
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