隅修三・東京海上ホールディングス社長--エネルギーは内向きより外向きに拡大させていく
保険の場合、競争力は商品だけで発揮するものではありません。まず保険商品の内容説明や勧誘の仕方、契約時や更新時の手続きなどがありますが、最大の事象は事故が起きたとき。いろんな流れの、どこ時点においてもお客様と代理店、保険会社が接することになります。この接点を、どこまでお客様に快適なものにするか、ここに尽きると思います。
インテグリティ軸に経営を心掛ける
--経営統合するのであれば、シナジーを持った統合をしたいとおっしゃっていますが。
たとえば、その会社と統合することによって、顧客により多くの価値が提供できる、より品質の高い価値が提供できるようになる、そういうものが成長だと考えています。価値が増大しない場合は、サイズが大きくなっただけです。
今は簡単に足し算をして、コスト効果を誰もが考えます。しかし、現実的には拠点の数は減らせるかもしれませんが、人間の数は減らせません。そうすると効率は全然、上がらないわけです。あるいはシステム基盤がまったく違うものを一緒にするということは、仕事のやり方がまったく違うものを統合するということです。つまるところ、文化を統合することと一緒なのです。
統合には時間とコストがものすごくかかります。そういった困難を乗り越えてでも、なおかつ成長の基盤になりうるものがあるという判断はあるでしょう。
--東京海上HDの場合、国内市場ではオーガニックグロース(内部成長)で成長していくと言明されているようですね。
国内の損保市場は、かつてのようなモータリゼーションの時代と同じ勢いで成長することは期待できません。もちろん、自動車保険のウエートが小さくなり、ほかの新種保険が増えていく形で市場が成長することを期待したい。だけどその中でどうやって成長していくかというときに、確かにどこかの会社と一緒になれば、1に0・5を足してボリュームは1・5になるかもしれない。しかし、市場が拡大しない中で、それに見合う1・5以上の収益が展開できるような絵が描けるかどうか。
むしろ今、われわれがやっているのは、自分自身だけでなく、代理店のスリム化、強靱化に取りかかっています。いわゆる「外向きのエネルギー」をどんどん使っているのです。それによってむしろマーケットシェアが増えてくる。
どこかの会社と足し算をして、そこに内向きの膨大なエネルギーを使うより、よほど将来展望が描けると思っています。だからこそ今、内向きの膨大なエネルギーを使うのではなく、外向きに使い始めたエネルギーを拡大していく、そういう時期だと思っています。