親が犯罪者になった子どもの立場の人に話を聞きたい、と思ってきました。被害者やその遺族の手前、表に出てきづらい存在ですが、被害者側の苦しみとはまた別のところで、加害者家族の苦しみも、確実に存在します。
取材申し込みフォームから連絡をくれたのは、20代の田嶋架純さん(仮名)。架純さんの父親は、彼女が高校生のときに殺人と覚せい剤使用により逮捕され、いまも刑務所で服役中です。メッセージからは彼女の迷いや苦しさが、輪郭をもって伝わってきました。
待ち合わせたのは、7月の休日、都内のデパートのカフェでした。新型コロナの緊急事態宣言が出てからはオンラインの取材が続き、外出が久しぶりだったためか、目に入るものがどこか生々しく感じられます。蒸し暑いテラス席でコーヒーを飲み、ちょっと一息ついた頃、まっすぐな瞳をした架純さんが現れました。
薬物中毒者の娘である自分も、人間ではないのか
架純さんが5歳のとき、両親は離婚しました。父親は仕事柄、遠くへ行くことが多く、また「遊び人だった」こともあり、もともと家にはあまりいませんでした。
架純さんたちが住んでいたのは、父方の祖父母の持ち家の1つでした。会社を起こして財を成した祖父と、名家の出身で手に職があった祖母。伯母やその夫も社会的地位の高い人物でした。父親はそんな親きょうだいに囲まれ、コンプレックスを感じて育ったのでしょうか。
祖母は「優しいおばあちゃん」でしたが、後に聞いた話では、意外と豪胆な人物でもあったようです。父親が悪い相手から金を借りた際は、身一つで事務所に乗り込み、金をたたき返してきたこともあったとか。そんな祖母のすすめもあり、母親は離婚後も祖父の会社を手伝いつつ子育てをし、そのまま祖父母の持ち家で暮らしていました。
父親は覚せい剤を使用して刑務所にいる。それを知ったのは、小学5年生のときでした。祖父母が同じ敷地内に家を新築してくれ、引っ越し作業をしていたところ、引き出しの奥から父親が書いた手紙が出てきたのです。この頃、父親に手紙を送っても宛先不明で戻ってきていたので、どうしているのかと気になり、つい中身を読んでしまったそう。
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