この国は、もう子どもを育てる気がないのか

日本は「想像力が欠落した国」になっていた

藤田孝典(ふじた たかのり)/1982年茨城県生まれ。社会福祉士、NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授。近著に『貧困世代』(講談社現代新書)、著書に『下流老人』などがある

藤田:それは助かるでしょうね(笑)。政府に期待できない以上、同じような境遇の人同士が情報や物を交換する「人間関係の豊かさ」が重要な時代ですね。ただ、自力でそういうネットワークを築けない人にとっては、国が子育てしやすい社会保障政策をとってくれないと行きづまってしまう。

平田:おっしゃる通りですね。本来、これは政治の問題であり、国が取り組むべきことです。しかし、今の政府の対応はどうにもズレている。たとえば、安倍政権は税制を優遇して、親子3世代が一緒に暮らす「3世代住宅」を促進しようとしていますが、これは「おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に暮らせば孫の面倒を見てくれるだろう」という、日本の古い家族観に囚われた発想であって、今の時代には合わないんじゃないかと思う。

出生率2.81の「奇跡の自治体」

平田:その点、地方自治体の中にはきめ細かい政策を取り入れているところもあります。岡山県の北東部にある奈義町では、地元出身の若い夫婦向けに、入居費の安い公営住宅を用意しています。こうすれば、一緒に暮らすわけではないけれど、おじいちゃんやおばあちゃんに孫を預けることもできる。

なぜこういう施策をとったのか。地元の方に聞いてみると、3世代で暮らすことを嫌がるのはお嫁さんじゃなくて、むしろお姑さんのほうだそうです。お姑さんたちは自分が若いころ、嫁姑問題で辛い思いをしたから、同じような思いを嫁にさせたくないし、自分だって嫁に気を遣いたくない。そこで今のような仕組みを作ったそうです。

藤田:よく考えられていますね。

平田:こうした政策が奏功したのか、奈義町は昨年、出生率2.81という奇跡的な数字を叩き出しました。この町はおもしろいところで、人口は6000人と少ないのに、建築家の磯崎新さんがデザインした現代美術館があったりする。そういうセンスのよさが、若者を惹きつけるのかもしれません。

藤田:人間をその土地に根付かせるには、最低限の住まいを社会保障で用意することが必要だと思います。ヨーロッパの多くの国では、若者のために公的な低家賃住宅を整備し、家賃補助制度を充実させている。そうやって住まいを提供することで、若者が親元から離れ、自分たちの「世帯」を作るようになる。そして世帯が増えれば、子どもも自然と増えていくというわけです。

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