この国は、もう子どもを育てる気がないのか 日本は「想像力が欠落した国」になっていた

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平田オリザ(ひらた おりざ)/1962年東京都生まれ。劇作家、劇団「青年団」主宰、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授。近著に『下り坂をそろそろと下る』、著書に『わかりあえないことから』(いずれも講談社現代新書)ほか多数

平田:国民の間でも、保育園問題については意見が分かれていますね。この前、ツイッター上での議論を見ていたところ、「子どもを産むのは覚悟のうえだろう」というつぶやきがあったので、とても驚きました。僕らの世代の感覚だと、「覚悟」というのは、演劇をやるとか、音楽家を目指すとか、そういう人が持つべきものでしたから。子育てというごく普通の営みにまで覚悟がいるのか、と。

藤田:本当におかしな話ですよね。私の新著『貧困世代』でも書きましたが、今の日本では、結婚して子どもを産むという、ごく当たり前のことでさえ、「ぜいたくなこと」だとみなされてしまう。

平田:そんな国は珍しいでしょう。海外に目を転じると、子育て世代のために様々な優遇政策がとられています。たとえばフランスでは、子どもを三人以上もつ親は、美術館などの文化・レジャー施設の料金が大幅に割り引きされます。これは子どもと一緒でなく、親がひとりで利用するときでも適用されます。子育て中であっても、子どもにかかりきりになるのではなく、演劇や美術、映画や音楽といった「文化」に触れる機会を失わないように配慮しているんです。

文化や芸術に接する権利を軽視している

藤田:欧州は「生存権」をとても大事にしているのでしょう。そもそも生存権とは、単に生きているだけではなく、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利のことです。しかし日本の場合は、そうした文化や芸術に接する権利を軽視している。生活保護を受けている人がコンサートに行ったり、映画を見たりしていたら、「生活保護のくせに、ぜいたくだ」などと言われてしまう。

平田:社会全体がギスギスしているように感じます。保育園に受かったお母さんが、子どもを預けて昼間から街を歩いていると、すぐに目を付けられる。もし映画なんか見ていたら「あの人は仕事をしていないのに、子どもを預けている」なんて保育園に密告されるから、有給休暇も取れないし、いつも働いているふりをしなければならない。

藤田:誰だって本音を言えば、ゆとりをもって暮らしたいんでしょうけど、他人がやっているのは許せない。社会全体が「こうあるべき」という考えに支配されている気がします。

平田:そうした風潮が蔓延する一方で、国はあてにならないんだから、自分たちで子どもを育てる環境を整備しようという企業や団体も増えてきましたね。じつは僕も1990年代の半ばごろ、「結婚・出産しても女優を続けられる劇団にする」と宣言したんです。それで、子育て中の俳優には割り当てられる仕事を少なくして、稽古場に子どもを連れてこられるようにした。団員同士も服を譲り合ったり、ベビーカーを使いまわすなど、相互扶助しています。それだけのことでも効果はあったようで、今、うちの劇団には40人くらい子どもがいます。地方公演のときなどは俳優たちが忙しいので、一番ヒマな僕が子どもたちの宿題を見てあげています。

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