この国は、もう子どもを育てる気がないのか 日本は「想像力が欠落した国」になっていた
平田:今でさえ官僚の経歴を見ると、ほとんどが東京の富裕層出身でしょう。今後はその流れがますます加速します。そして官僚が都会の富裕層出身ばかりになると、先ほども話題に出てきた、社会的弱者の暮らしに対する想像力が働かなくなってしまう。
藤田:一方、シングルマザーのお子さんなどは塾にも行けないし、教材を買ってもらうこともできない。勉強すれば社会的に成功できるかもしれない、という夢を持つことができない。対する富裕層の子も、ひたすら勉強してエリートになることを宿命づけられているという面ではつらいんですけれど、両者が交わることはない。日本社会は分断され、階層化が進む一方です。
平田:先日、ある教え子の学生が「貧しいのは自己責任だ」という趣旨の話をしていて、とてもショックを受けました。
今の時代、ふつうに大学を出ても、もしかしたら「ブラック企業」に就職するかもしれないし、仕事のストレスでうつ病にかかって働けなくなるかもしれない。たとえ一流企業に就職できたとしても、親の介護が必要になって働けなくなるとか、誰でも貧困に陥る可能性はあるわけです。しかし富裕層の学生には、そうした想像ができない。だから「自己責任」なんて言葉を軽々に口にしてしまう。
高度経済成長という幻想
藤田:ところで、今夏の参院選から選挙権の年齢が18歳に引き下げられ、約240万人の新たな有権者が生まれますね。若者たちの声が国政に反映されるのでしょうか。
平田:最初の選挙次第でしょうね。何らかの影響を与えることができれば、政治家も若者の意見を無視できなくなる。だから若者たちには、ぜひ投票に行ってほしい。若い世代の投票率が高いということを示さないと、政治家の若者軽視の態度は変わりません。
藤田:ぜひ選挙に関心を持ってほしいですね。ただ、18歳から20歳くらいの若者だと、自分の身の回りのことで精いっぱい。社会や政治のことは上の世代に任せておけばいいという人も多いんですよ。おまけに今の若者はみんな公務員を目指すような安定志向で、社会を変えようという気持ちのある人が少ない。
平田:階層の固定化が進んでしまったために、自分たちが「社会を変えることができる」というイメージを持てないのでしょう。
藤田:そんななかで「アベノミクス」などという大きなスローガンを聞くと、「よくわからないけど、任せておけば景気が良くなっていいんじゃないか」という幻想を抱いてしまう。