貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち 武器を持たず、服で競う「サプール」の生き方とは

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1.上質な服をエレガントに着こなす
2.色彩感覚を磨き、色のハーモニーを奏でる
3.武器は持たない。軍靴を履く代わりに平和のステップを刻む
4.気取って歩き人を魅了する
5.他人を認め、他人を尊重し、他人に敬意を払う
6.個性を大事に、誇り高く生きる  
~本書「Chapter1」より

貧しくとも、賞賛を集めるスター

こう書くと、サプールは一部のカネ持ちの道楽のようにも見える。しかし、驚くべきことに彼らの多くは貧しい一般人である。職業は、電気工事士やカフェ経営者や森林経済省の事務員などだ。サプールはスターだが、決して人々は、現世的な栄達の象徴として憧れているわけではない。あくまでもその生き方、立ち居振る舞いからにじみ出る「格好良さ」に対して、賞賛を贈っているのである。このようにコンゴの人々が現世的な栄達以外の物差しを持っていることと、欧米から踏み荒らされてきた長い歴史があることは、無関係ではあるまい。

この6つのルールのなかで異彩を放つ「3.武器は持たない。軍靴を履く代わりに平和のステップを刻む」が、その歴史との関係性の深さを最も端的にあらわしている。コンゴ紛争は、世界最大の紛争と呼ばれ、500~600万人の死者を出したといわれている。この紛争は、代々受け継がれてきたサプールの歴史に重大な影を落とした。内戦でサプールの父から受け継いだ大切なスーツをすべて失ったセブラン・ムエンゴは、本書のインタビューに次のように答えている。

「戦争がダメだということがよくわかりました。戦争のせいで大切なものを失い、得たものは何一つないのですから。」
「サプールは武器を持たず、軍靴の音は鳴らしません。ブランド靴の音を響かせます。ただ服で競い合うのです」
「サプールと戦争は対極にあります。共存などできません。サプールであり続けるということは、非暴力の運動でもあるのです」
~本書「Chapter3」より

 

軍靴ではなく、ブランド靴。それが彼らの主張である。ビジネスの世界で勝ち抜くことで、あり余った金で着飾る生き方とは根本的に違う。勝ち抜くことは、軍靴を履くことにほかならない。自らの内面を磨き、他人を尊重し、周囲を喜ばせることができてはじめてサプールなのである。それを、きりつめた生活のなかで成し遂げることで、同じように塗炭の苦しみにあえぐ人々にとって、暗闇のなかの一筋の灯になれるのだ。それがわかったときに私は、ようやく彼らが放つ輝きの強さを理解でき、彼我の隔たりに愕然とした。

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