大手メーカーが駆け込む金属加工会社の秘密 精緻なものづくりに挑む"文系女子"パワー

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同社の武器は、独自のデータベースによってカスタマイズした最新鋭の機械。データを機械に落とし込み、さまざまなケースをすべて蓄積し、その蓄積されたデータを解析しながら、機械を調整するという作業を日常的に行っている。それは試行錯誤の繰り返しで、失敗ケースも貴重なデータだ。だから井口社長は日頃から「機械をいくら壊してもいい。でも自分で修理してね」と伝えている。そこに理系の専門知識は必要ない。むしろ先入観がかえって新しい挑戦を妨げることもある。

2カ月に1回は全社イベントがある。仕事納めの日には全社員でふぐを食べに行く。写真は春のバーベキュー

製造グループでレーザー加工を担当している入社1年目の社員は、美術大学の造形学部出身。ものづくりに興味はあったが、機械や金属加工の知識なんてほとんどなかった。が、今や日々大きなレーザーマシンの前に立ち、そのメンテナンスまで行っている。同じく入社1年目の別の女性は文学部出身。現在は購買や海外プロジェクトを担当している。

井口社長が目指すのは「究極の多能工化」だ。たとえば、現在マネジャーを務める社員の一人は、知財戦略を立て、プログラミングや3D CADを使った設計ができて、精密な検査機器も扱い、営業もできる。全社員をこうした多能工に育て上げれば、最強の組織になる。そのために取り入れたのが、新しいスキルを身につけるごとに毎月の給料が上がるシステム。新卒で入社した社員でも、1年間で3回くらいの昇給がある。評価されていることがダイレクトに感じられ、モチベーションにつながっている。

女性だけを意識して採用しているわけではないが、採用時の選考過程を経て結果的に女性ばかりが残ってしまったにすぎない。「男性には瞬発力があるが一定の質を維持することが苦手な傾向がある。ものづくりには女性のほうが向いているのかもしれない」と井口社長は分析する。女性が働きやすいように、所沢事業所内でいちばん費用をかけたのはなんと女性トイレ。そして、来年度中には事業所内保育施設を開設する予定だ。

銀座4丁目の地下に工場を

2015年2月には海外案件を扱う子会社を設立した。この子会社では、これまで培ってきた技術を世界でフランチャイズ化するという計画もある。社名は「なんとかなる」。井口一世創業時からのスローガンをそのままつけた。大きな夢もなんとか実現させてしまう勢いが感じられる。

さらに井口社長は笑いながらこう言う。「将来的には銀座4丁目の地下に工場を移転したい」。17時30分に終業すると、男性社員はアルマーニを着込んでクラブに遊びに行き、女性社員はシャネルのスーツに着替えてショッピングを楽しむ。そんな光景にあこがれるのだという。「そのためには社員の給料を1000万円以上に上げられるまでに成長させますよ」

日本のものづくりを時代に沿った新しい形で進化させた技術が、世界中の製造業を変える日はそう遠くないのかもしれない。

堀越 千代 東洋経済 記者

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ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

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