ネット時代、「名誉毀損」はこんなに変わった 「損害」と認められる範囲が広がった意味
「発信者情報の特定のための費用について、名誉毀損の『損害』として認めることをはっきりと示したところが注目すべき点です。
名誉毀損で被った損害であれば財産的損害も賠償請求できるというのが法の建前ですが、実際に財産的損害として認める範囲を、裁判所はこれまで限定的に解してきました。これに対して今回の判決は、発信者情報の特定のための費用が財産的損害にあたり、賠償の対象になることを明示したという意味で、とても汎用性のある判例だといえます」
佃弁護士はさらに注目すべき判例として、通信社の配信記事をそのまま掲載した地方紙が、名誉毀損で訴えられた裁判の最高裁判決を挙げる(最高裁第1小法廷平成23年4月28日判決)。
通信社が「セーフ」なら新聞社も「セーフ」
問題となった記事は、原告である大学病院の医師が、医療ミスにより患者を死亡させたという内容だ。大学の報告書などをもとにした記事だが、その後、これを否定する報告書が関連学会から出され、業務上過失致死罪に問われていた原告は無罪が確定した。
この記事で名誉を毀損されたとして、原告は通信社および地方紙3社に対して不法行為に基づく損害賠償訴訟を起こし、最高裁まで争った。これに関して、佃弁護士はこう説明する。
「米国の場合、『配信サービスの抗弁』というものがあり、地方紙は通信社から配信された記事であることを証明できれば、原則として責任を問われず、その記事の責任は通信社が一手に負うという法理があります。日本でも、この法理が認められるかが長らく争われてきました。
この点について最高裁は2002年に、通信社から配信された記事であることを証明したとしても新聞社は責任を免れるわけではないという判断をして、ひとつの決着がつきました。つまり、通信社が『アウト』の場合、新聞社も原則として『アウト』になってしまうということです」
しかし今回のケースは、通信社には医療ミスが真実だと信じるに足る「相当の理由」があったという事案、つまり、通信社が「セーフ」の事案だった。このケースで最高裁は、通信社と新聞社に報道主体として一体性がある場合には、通信社と同じく新聞社にも「相当の理由」があるといえると判断した。要するに、通信社が「セーフ」なら地方紙も「セーフ」であるという判断を示したのだった。
「通信社が免責される場合、記事を買った新聞社も一定の場合に免責されることをはっきり認めたという意味で、価値のある判断だと思います」