日本人が知らない"カネの国"アメリカの美徳

「カネを作る人」がもっとも尊敬される

平たく言えば彼はアメリカン・ドリームの体現者なのだが、アイン・ランドの道徳律、いまやアメリカのポップカルチャーともいえる思想信条体系の中では偉大な人格者でもある。多くの文化において、おカネを稼ぐ能力と徳の高さが直接結びつけられることはない。むしろおカネを稼ぐことを目指して公言し、はばからない人間を揶揄し、嘲笑し、隙あらば貶めようとする風潮は東西を問わず、あらゆる文化にいまも存在する。ベニスの商人やクリスマスキャロルを引用するまでもない。

筆者自身もアメリカに長く暮らす中で、そこはかとなく漂う不思議と前向きで明るい拝金主義になじめなかったのだが、「おカネの演説」を読んではじめて、かれらのおカネへの信仰の裏にある道徳観を理解できた気がした。ちなみにトランプはミリオンセラーの『トランプ自伝(原題:The Art of the Deal)』の冒頭で「私はカネのために取引をするわけではない」と断言している。あたりまえのようだが彼にとってもおカネはあくまで手段であり、ビジネスでの成功の象徴にすぎない。そしてアメリカ人がおカネへの愛を公言してはばからないのは、ランドの言葉を借りれば「おカネを道具と象徴とする規範」が共有されているからだろう。

マネーを「メイク」することの重要性

ついでだが、この規範において富が徳の高さをしめす一つの物差しとなるためには、その富は彼または彼女自身が努力して稼いだものでなければならない。この価値観は、党派や宗教を問わずに浸透しているようだ。

毎回の大統領選の共和党大会、民主党大会で演説をする面々をみると、多くの弁士たちが自分の両親がいかに普通の労働者で、家族や周囲の支えがあったとしても自分のような生い立ちの人間がここまで登りつめることができるアメリカは素晴らしい、というお約束のような自己紹介をすることが多い。

今回の共和党予備選の討論会でもその傾向があきらかだった。マルコ・ルビオは両親がキューバの貧しい家庭で育ったこと、父親がバーテンダーだったことを誇らしげに語り、その息子が大統領候補になることこそがアメリカン・ドリームの本質だという。オハイオ州知事ジョン・ケーシックの父親は郵便配達員、祖父は炭鉱夫であり、祖母はほとんど英語が話せなかった。ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーの父親はアイスクリーム工場で働いており、カーリー・フィオリーナの自慢は自分が秘書からはじめてCEOにまでなったことだ。

神経外科医のベン・カーソンは生い立ちについて多くは語らないが、人種や信条を超えてあれほど尊敬を集めているのは、デトロイトの極貧の母子家庭で育ち、苦労しながらエール大学に進学し、米国で最も尊敬される医師となった経歴に負うところが大きい。一方、ジェブ・ブッシュが自分から父親について語ることはほとんどない。

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