日本人が知らない"カネの国"アメリカの美徳 「カネを作る人」がもっとも尊敬される
ドナルド・トランプといえば、日本では金ぴかのタワーを建てて自らの名を冠し、強欲で自己顕示欲の強い利己主義者のイメージが強い。日本では、それは一国のリーダーとなる高潔な人格者のありかたからはほど遠いものだ。
アメリカでも今回の大統領選の序盤では単なるナルシストとしてメディアからは現実的な候補者扱いはされてはいなかったのだが、彼の支持者は違う。とくに茶会系の支持者たちは、かれらが信奉するアイン・ランドの理想、資本主義の象徴である成功した実業家として無邪気にトランプの人格と資質を礼賛している。
トランプが体現しているものとは?
大企業で役員を務め、アイン・ランドの哲学である客観主義の研究に30年以上たずさわり、茶会運動にも活発に関与してきたクレイグ・シュルツは早くも8月に保守系のウェブマガジン『アメリカン・シンカー』で、「トランプはかつての良きアメリカを想起させる。アメリカ人は楽観主義者だ。自分の手を動かし、問題を解決し、創造し、成功を讃える。アメリカ人は独立心旺盛で、誇り高く、おおむね幸福な人たちだ。アメリカは独立独行の男(セルフメイド・マン)の国であり、カネが政治的な配慮や駆け引きでたかられたり獲得されたりするのではなく、作られる国なのだ」と書いている。
アイン・ランドを読んだことがある人なら誰でもすぐにピンとくるのだが、最後の一文はほとんどが、彼女の代表作『肩をすくめるアトラス』のなかでも有名な「おカネの演説」からの引用である。
演説は物語の中盤、カネに無頓着な博愛主義の経営者ジェイムズ・タッガートの結婚式で、「金(カネ)は諸悪の根源だ」と語るジャーナリストの言葉を耳にした銅山王フランシスコ・ダンコニアが招待客を前に、「それではあなたがたがたは、金(カネ)は諸悪の根源だとお考えなのですね?」と異議を唱えるところから始まる。そこでフランシスコは、お金が横領や略奪ではなく、ある名誉の象徴、生産と思考の象徴であり、「おカネの根源たる道徳律をおかさない人間がいるという希望の証」だと主張する。そしてアメリカ人が最も誇るべき特徴は、かれらが「おカネを作る」という文句を創った民族であることだと指摘する。
トランプには実業家として巨万の富を築いた実績がある。1946年に生まれ、激動の60年代に公民権運動に身を投じるでもなく、大学時代から父親の仕事を手伝い、20代でマンハッタンに進出して大規模ホテルやタワーの開発に成功し、ブルックリンの堅実だが地味な不動産ビジネスを世界的な複合企業へと大きく成長させた。その過程でベストセラーを何冊も書き、テレビ番組「アプレンティス」を大成功に導き、一度は多額の負債を抱えて危機的な状況に陥りながらも立ち直り、従業員3万人超の大組織の経営者となった。
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