そして、山梨学院大学の「成功例」と「箱根人気」に目をつけた他の大学もケニア人留学生の受け入れを開始する。平成国際大学が2人のケニア人留学生を入学させて、箱根駅伝の初出場(第77回大会/2001年)を決めると、その後も駅伝新興大学に留学生の姿がよく見られるようになった。
個人的には、箱根駅伝で12回の総合優勝を誇る名門・日本大学にケニア人留学生が入学したのにはビックリしたが、近年では当たり前の光景になっている。来年正月の箱根駅伝は、山梨学院大学、日本大学、拓殖大学、東京国際大学で留学生の出場が濃厚だ(拓殖大学のみエチオピア人であとはケニア人)。なお予選会で落選したが、桜美林大学と日本薬科大学にもケニア人選手が所属している。
さまざまな関係者から、ケニア人よりエチオピア人の方が、代理人などに支払う“手数料”がリーズナブルだという声も聞く。しかし、日本に来る外国人ランナーはケニア人が圧倒的に多い。それは代理人の影響力と、これまで築き上げてきたケニアとのパイプが強固なことが理由だろう。たとえば、かつて所属していたケニア人選手が紹介するかたちで、競技力があり、日本の生活にもフィットしそうな“優等生”を獲得できる可能性があるからだ。
ケニア人留学生は助っ人なのか?
“ケニアからの熱風”は大学だけでなく、高校や実業団でも猛威を振るっている。問題は彼らの存在をどうとらえるかだ。「助っ人」か、それとも「国際交流」か。はたまた“世界”を目指すうえで超えるべき「ライバル」なのか。
留学生チームのパイオニア的存在である山梨学院大学は、過去に「黒人を使うな」という罵声を浴びせられたこともあったという。それでも、現在まで10人のケニア人を受け入れてきた。来日した当初は日本語をほとんど理解できないが、上級生になると取材にも日本語で答えることができるくらい、山梨学院大学の留学生はしっかりと日本のことを学んでいる。
しかし、留学生の実力がないと判断されると、1~2年で“交換”という大学もあると聞く。その理由を考えると、「国際交流」が目的でないのは明らかだ。学校名をPRするために、強力な留学生を「助っ人」として入学させて、インスタント的にチームを強化する。これは駅伝だけではなく、高校スポーツでいえばバスケやラグビーなどでも同様のことが起きている。
筆者はこれまでに多くのケニア人留学生を取材してきたが、彼らの祖国での生活は日本人の感覚からすれば、信じられないことばかりだ。ある選手によると、「中学校までは5㎞ほどで、昼ご飯も自宅まで食べに帰る」という。その結果、舗装もされていない道を1日に往復2回、合計20㎞ほど走ることになる。また、「川で水浴びをすることが多いが、それは非常にデンジャラス。なぜなら、ワニがいるので、気をつけないといけない……」と。
ケニアの平均年収は10万円ほどという。ランナーたちは趣味で競技をしているのではなく、貧困から抜け出すために、家族や親戚のために走っている。そのモチベーションは、日本人とは異質のものだ。ケニア人にとって、日本で競技をすることは、人生のなかでのビッグチャンス。実業団に進むことができれば、彼らの国では大金ともいえる収入を得ることができる。そして、引退後は日本で稼いだお金をもとに母国でビジネスをはじめる元ランナーは少なくない。
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