領土をめぐって、中国、韓国の対日攻勢が激しい。対ロシアを含め、国境紛争はいまに始まったことではないが、ここへきて、なぜ中国、韓国の攻勢が高まっているのか。
過去には、首相の靖国神社参拝で反日運動が燃え盛ったことがあった。今回は東京都や国による尖閣諸島の所有権買い上げの動きなどが火を点けたという指摘もないわけではないが、それよりも向こうの政治、経済、社会の情勢が主たる要因だろう。
中国も韓国も経済的発展で大国意識が強くなり、ナショナリズムの高揚がある。加えて、中国は権力者の交代時期、韓国は大統領の支持率凋落による政権の危機という事情が影響している。国内が揺れているときは国民の関心を外に、という手法を政治指導者が取りたがるのは洋の東西を問わない。
だが、それだけでなく、経済低迷と不安定政権の連続という昨今の日本弱体化を見て、いまがチャンスと向こうが領土的野心を膨らませている面がある。6年で6人という連続短命首相と政治の劣化、失政と背信で国民の支持を失った民主党政権、立ち枯れ状態の野田首相という「日本の弱み」に付け入って、この際、領土問題で有利な状況に持ち込んでおこうという作戦なのか。
加えて、もしかすると、と感じることがある。 中国や韓国は野田首相自身を標的にしている可能性がある。野田首相は、民主党政権誕生の直前に刊行した自著『民主の敵』で、2004年に訪中したとき、尖閣諸島の問題でも、持論の「きちんとものを言う外交」を展開して中国の要人と激しく論争した話を誇らしげに書き綴っている。
中国や韓国には、控えめで主張しない過去の日本の首相と違って、「危険なリーダー」という警戒心があり、日本国内の政情を見て、野田首相が落ち目になっているいま、野田政権を外交的にも窮地に追いやるのが得策と計算しているのかもしれない。風前の灯の野田首相は、文字どおり「内憂外患」だが、窮地脱出の起死回生の一打を繰り出す力量と手腕があるのかどうか。
(写真:尾形文繁)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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