8月8日の野田・谷垣会談で「近いうちに信を」と口約束して、やっとの思いで消費税増税法案成立と内閣不信任案可決阻止で同意を取り付け、急場をしのいだ。このときは、野田首相の命脈は風前の灯と映った。ひょっとすると9月8日の会期末に次期代表選不出馬、つまり退陣表明か、運よく代表再選を果たしても「総選挙大敗・首相退陣」は必至で、余命いくばくもないと誰もが思ったはずだ。
一方の谷垣自民党総裁は、「近いうち」という言葉を引き出し、増税法案成立後は「闘う自民党」路線に戻って、野田政権打倒と早期解散実現で突っ走った。首尾は上々で、9月の総裁選も「谷垣再選」で決まりと思われた。
ところが、8月29日に参議院での首相問責決議案に自民党が同調したあたりから空気が変わり始めた。なぜか野田首相への逆風は弱まり、代表再選確実という空気に変わる。反対に自民党では「谷垣失速」で、総裁選が乱戦模様となる。谷垣不出馬説も流れ始めた。
振り返ると、野田首相は就任後、代表再選に照準を合わせて着々と手を打ってきたふしがある。消費税増税で民自連携に走れば、反対する小沢元代表は離党するが、党内の反対勢力の縮減で、代表再選は容易になる。
反対に、谷垣総裁は総裁選をにらんで、党内の落選組が望む早期解散実現を最優先にする作戦で走ってきたが、確約が取れず、迷走した。
再選戦略だけなら、野田首相が一枚上手といえるかもしれない。だが、ともに「国民目線」を忘れた発想と舵取りで、五十歩百歩だ。昨夏、「傷だらけの政権」を引き継いだ野田首相は民主党再生に果敢に挑戦すべきだった。谷垣総裁も野党の3年で「ニュー自民党」として蘇生させる責務を負っていたのに、古い自民党の枠を超えられなかった。
両党とも正体不明の「ごった煮党」のままでは次期総選挙で国民に見限られるだろう。遅ればせながらも、この後、党首選などを通じて「ニュー民主党」「ニュー自民党」の将来像や路線、政策を練り上げ、総選挙で国民の支持を競う形に持ち込まなければ、ともに衰退必至だ。
少ない残り時間で党新生のシナリオを提起できるのは民主党か自民党か。
(写真:尾形文繁)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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