数学で未知のことに向かう活力を得る--『数学入門』を書いた小島寛之氏(数学エッセイスト、帝京大学経済学部教授)に聞く

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──無限に小さい変化を論理矛盾なく表記するのは難しい。

確かに、無限に小さい幅で比例関数を作り、その時の傾きが微分、無限に小さい幅・高さの細い長方形を作って、それを集めると積分と、口述するとそうなのだが、実は近似という考え方を使い、局所近似比例関数を作らないと論理破綻する。数学とは、ある意味で「無限の操作を有限で済ませる技術を追究している学問」ということもできる。

──最もチャレンジングなのは集合の章ですか。

この章は執筆に苦労した。集合が大事で、現代数学を変えたといわれている理由を丁寧に書いたつもり。無限にも大きさに違いがあるし、集合論の応用から新しい数や新しい数学的素材を生み出すこともできる。「不確実性が備える法則」を暴き出す確率論にも集合は大いに有効だ。

──それがまた宇宙やミクロ世界の解明に役立つようですね。

極限まで抽象化した最先端の数学が、今話題になっている素粒子の振る舞いを説明するのに使われている。むしろ振る舞いを描写するために必要といっていい。数学者は自由奔放に数学を作っているのだが、それがミクロの世界や宇宙を説明するのに不可欠という摩訶不思議な関係に至っている。

──想像を絶する関係……。

素粒子研究にスピンなる用語が出てくる。フィギュアスケート選手のくるくる回るイメージではなくて、360度が2回ないと、元に戻ってこないようなスピンをしているらしい。もちろん人間の目には見えない。その動きを複素数の2次元を使うと数学的にぴったり表現できるようだ。ミクロの物質同士の振る舞いは確率で表現されるが、その確率も複素数が牛耳っている。実験でしか確かめられない想像を絶する世界だ。

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