これは、日本から米国への所得移転だ。その大きさは、対外資産の1%、つまり6兆円程度であり、GDP(国内総生産)の1・2%程度である。もし日本が運用利回りを向上できれば、日本はそれだけ豊かになれるのである。
東日本大震災後、日本の貿易収支は赤字になった。が、経常収支は依然として巨額の黒字だ。それは、所得収支が巨額の黒字だからだ。日本は、国際収支の発展段階として、「未成熟な債権国」から「成熟化した債権国」に移行する過程にある(「成熟化した債権国」とは、貿易収支でなく、所得収支によって経常黒字を実現する段階のこと)。
今の日本にとって、対外資産の運用利回りを向上させることは、輸出を増大させることより重要な課題だ。個人にたとえて言えば、次のようなことだ。年をとったので、身体は弱り、給与は下がる。あるいは、店に客が来ない。しかし、過去の所得から蓄積した資産はある。したがって、働かなくとも所得が得られるのである。実際、日本の対外純資産は世界一である。だから、無理して輸出を増やそうとするのではなく、資産を適切に運用することを考えるべきなのだ。
専門家が報われる体制の確立を
所得収支の重要性は、やっと認識されるようになってきた。しかし、対外資産の運用改善で所得収支の黒字を増やせるということは、認識されていない。今政府がまとめようとしている「日本再生戦略」にも、こうした視点はまったく見られない。
では、どうすればよいのか。第一は、直接投資の比重を高めることだ。
日本の対外資産で直接投資の比重が低いのは、海外投資の歴史が米国のようには長くないからだ。それを考えれば、現状での比重の低さには、やむをえない面もある。ただ、この数年、製造業を中心に海外移転が加速しており、直接投資のウエイトは今後高まっていくだろう。