(第56回)金利変動に脆弱な日本の銀行資産構成

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ところで、メガバンクは、国際業務でも利益を上げる方向にビジネスモデルの転換を目指していると言われる。アジアを中心に海外で融資を増やそうというわけだ。

しかし、これまで見てきた状況を考えると、そうした方向での転換で利益を増大できるかどうかは、疑問なしとしない。これまで日本国内で行ってきた間接金融業務と同じものをアジアに広げるだけでは、限度があるのではなかろうか?

アジアという場合、中心は当然、中国になるだろう。確かに現状では、大きな利ザヤが保障されている。しかし、そうした特権を獲得するためには、中国政府にそれなりのコストを支払う必要があるだろう。しかも、こうした金利規制が将来も継続するかどうかは、まったくわからない。

そうした方向を目指すのではなく、アジアにおける投資銀行業務を目指すべきではないだろうか。

日本の長期信用銀行は、80年代の中頃に、投資銀行への脱皮を模索したことがある。たとえば、日本長期信用銀行は、85年に「第5次長期経営計画」を策定し、社債引き受け、M&A関連業務、デリバティブ業務などへの転換を目指した。しかし、土地価格のバブルが進展したため、不動産融資拡大路線に転換し、結局は不良債権を積み上げて破たんしてしまった。他の2行でも、同様の状況だった。投資銀行業務は、日本国内では拡大しにくいものだ。アジアの工業化が進んでいるいまは、新たなチャンスと言える。いま再び、投資銀行的方向に向けての転換をはかることはできないものだろうか?

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年7月21日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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