「牛丼がTPPで激安になる」という噂のウソ 関税見直しで、日本の食は激変するのか

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サラリーマンの味方である牛丼がこれ以上安くなるのは難しいだろう

スーパーに売られている牛肉パックについても、小売り各社を訪ねると、残念ながら似たような意見が返ってきた。「うちの営業担当はTPPより相場の動向を気にしている。関税よりも振れ幅が大きいからね。加工肉は価格が下がるという説もあるが、結局は商社などにサヤを抜かれるのではないか」(東京地盤の小売り大手)。

為替レート、原材料市況、その時々の需給。関税は確かにそうしたコストファクターの1つにすぎないのは事実。それ以上に食肉のような流通量の大きい基幹商材の場合は、経営への悪影響を懸念して流通業者も値下げを渋りがちだ。つまり、牛肉の値下げ効果にあまり消費者は期待してはいけない。

はちみつはTPPの恩恵を受ける?

一方で、実際に消費者メリットが及びそうな商品もある。その一例が、「はちみつ」だ。TPP発効から8年目に、25.5%の関税が撤廃される。

はちみつは国内需要の9割が輸入で賄われている。しかも、その輸入の8割は中国産だ。中国産が多いのはひとえに広大な自然を生かした量産能力からくる安さゆえだが、一方で品質に対する日本国内の不信感は小さくない。中国産はちみつの輸入販売を行うメーカーは「中国で行った品質検査の結果を日本で再照合し、問題があればすぐに輸入をストップする」と警戒する。

そのはちみつも、TPP発効後は中国以外からの輸入増が期待できそうだ。加盟国の中ではカナダ、ニュージーランド、メキシコ、オーストラリアが、はちみつの主要生産国だ。たとえば加盟国のニュージーランドは「マヌカハニー」という抗菌作用を持ち、風邪やインフルエンザの予防効果も期待される人気のはちみつで有名だ。現在日本では1瓶2000円以上するする高級品だが、今後はもっと手頃な値段で店頭に並ぶようになるだろう。

牛肉のような食卓の中心的商材が値下がる保証はない。しかし、はちみつのように新しい輸入食品が増えるなどして選択の幅が広がるメリットは間違いなくあるだろう。

12月7日発売の週刊東洋経済12月12日号は『TPPで激変する 日本の食』を特集している。大筋合意以後、品目ごとの関税撤廃率は公表されたものの、いまだにわかったようでわからない、TPPにまつわるホントとウソを、日本の食と農業に焦点を当てて検証した。

西澤 佑介 東洋経済 記者

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にしざわ ゆうすけ / Yusuke Nishizawa

1981年生まれ。2006年大阪大学大学院経済学研究科卒、東洋経済新報社入社。自動車、電機、商社、不動産などの業界担当記者、19年10月『会社四季報 業界地図』編集長、22年10月より『週刊東洋経済』副編集長

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