中国を嫌う人ほど本当の中国を知らない

現代中国を作った「鄧小平」の偉業とは?

ここ5年ほど、嫌中感情がひときわ高まっている。だが、中国を毛嫌いするひとほど、中国のことを知らない。これが私の観察だ。こんなときだからこそ、嫌中派はもちろん、なるべく多くの日本の人びとにヴォーゲル教授の『鄧小平』(本編)を読んでもらいたいと思う。現代中国の本質を理解するのに、これほどふさわしい本はないだろう。

けれども、日本語訳の『現代中国の父 鄧小平』(日本経済新聞出版社・2013年)は上下二巻で、1200ページもある。専門でないビジネスマンや学生諸君、一般読者に十分理解できるように書かれているが、値段と厚さのせいで、どうも手が伸びにくい。うまい工夫はないものか。そうだ、そのエッセンスを紹介する、ポピュラーバージョンを出すのがよい。私がヴォーゲル教授をインタヴューして、新書にまとめよう。

こう、ヴォーゲル先生に提案すると、それはよい考えだ、と賛成してくれた。そこでさっそく準備にかかり、じっくり練り上げて、今回刊行されたのが、『鄧小平』(講談社現代新書)である。

この新書では、鄧小平という人物の本質を、ヴォーゲル先生のユーモアあふれる語り口を通じて、ひき出すことを心がけた。『鄧小平』(本編)では証拠がないからと、はっきり断定しないで残してあった微妙な事情にも、一歩踏み込んだコメントを加えている。

フランスに留学した若い日から、革命に身を捧げた艱難の日々、新中国成立以降の活躍と失脚、復活を果たしたあとの改革開放の推進。林彪とのライバル関係。毛沢東への忠誠と反骨。天安門事件の流血に至る経緯と事後処理。新書だからすぐ読める厚さであるが、鄧小平という指導者の、そして近代中国の苦難の歩みを、見通しよく理解できるはずだ。

日本と中国の社会に通暁したヴォーゲル教授

ヴォーゲル教授はいまも毎年、何回も中国に調査旅行に出かけ、ハーバード大学では中国研究センターの連続講演会を主宰するなど多忙な毎日を過ごしている。新たに、日中関係の歴史をテーマにする著書を準備中だとも聞く。最近の波乱含みの日中関係を憂慮するヴォーゲル教授ならではの、提言が盛り込まれるはずだ。これも楽しみである。

『鄧小平』(新書)のもとになるインタヴューは2014年秋、数回に分けて日本語で行なわれた。それを私が原稿にまとめ、ヴォーゲル教授が目を通して最終原稿が完成した。日本語版の訳者のひとりである益尾知佐子氏(九州大学准教授)が新書の原稿に目を通し、いくつもの誤りを指摘してくださったのは幸いなことだった。お礼を申しあげたい。

エズラ・ヴォーゲル教授は、日本と中国の社会に通暁し、深い洞察力をもってみのり豊かな研究を続けている、世界の宝である。貴重な時間を割いて、インタヴューに応じてくださったことに、日本の読者を代表して、感謝したい。またこれを機会に『鄧小平』(本編)、とくにその日本語版がさらに多くの読者に迎えられ、古典として末永く読み継がれていくことを期待したい。

講談社『本』12月号より)

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