中国を嫌う人ほど本当の中国を知らない 現代中国を作った「鄧小平」の偉業とは?
後世の歴史家が、20世紀半ばからの新中国の歩みをふり返り、もっとも大きな貢献をした人物を一人だけ選ぶとすれば、それは毛沢東でなく鄧小平であろうと、エズラ・F・ヴォーゲル教授は語る。毛沢東の死後、権力の空白を埋め、外国との良好な関係を築き、中国を経済超大国へと導いたのは、鄧小平だった。世界史の奇蹟と言ってもよい出来事だ。
ゆえにヴォーゲル教授が、鄧小平をあらゆる角度から解明する、世界で初めての本格的な研究書 Deng Xiaoping and the Transformation of China (2011)【以下、『鄧小平』(本編)と略称】を著したのも、当然であろう。貴重な歴史の証言であり、グローバル世界を読み解くための基本書でもある。
1999年から翌年にかけて、私は客員研究員としてハーバード大学で過ごし、エズラ・ヴォーゲル教授の知遇をえた。ヴォーゲル教授はちょうど70歳で退職の年にあたり、これから鄧小平についての本を書くつもりだ、と楽しそうに話していた。それは楽しみですね。ヴォーゲル先生しか書けないと思いますよ。そして10年あまり、待ちに待った大作が書店に並ぶと、たちまちこの分野では異例のベストセラーとなった。中国語にも翻訳されて、大陸、香港、台湾の版を合わせると100万部を越えている。
ヴォーゲル教授の仕事が画期的な点は、いくつもある。第一に、信頼できるデータにもとづいた、包括的な研究であること。鄧小平のような近過去の指導者は、公開されない情報も多い。
ヴォーゲル教授は、公開された文献情報をしらみつぶしにするのはもちろん、それを補うべく、可能な限り多くの関係者(家族や元部下、共産党の幹部、外国の政府首脳など、鄧小平を直接に知る人びと)をインタヴューして、裏付けをとった。特に中国の人びととは通訳なしに、中国語で話しあっている。
第二に、膨大なデータをまとめるのに、社会学の理論を下敷きにしていること。ヴォーゲル先生の分析はパーソンズ(著名な社会学者で、ヴォーゲル教授の指導教員だった)を思わせますね、と私がコメントすると、わかりますか、彼の理論は役に立つんです、と種明かしをしてくれた。
『鄧小平』(本編)は、禁欲的な本で、疑いのない歴史事実だけを書いている。その背後にある動機や意図は、暗示されるだけで、読者の推論に委ねられている。まるで推理小説ですね。現場に被害者が倒れている。血のついた凶器が転がっている。犯人はあの男らしい。でも、動機があるか。アリバイはあるか。証拠は十分か。それはみんなで考えて下さい、ですね。ヴォーゲル先生の答えは、そこを意図して書きました。なるほど、この本には読み方がある。舞台裏を知っているプロなら、2倍楽しめる本なのだ。
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