北海道新幹線が東海道新幹線より高額なワケ 鉄道の運賃と料金はどうやって決まる?

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運賃の決定方法に言及している法律は鉄道事業法である。同法第16条1項と3項は運賃等の決め方を以下のとおり規定している。

「鉄道運送事業者は、旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以下『旅客運賃等』という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」(1項)「鉄道運送事業者は、第一項の認可を受けた旅客運賃等の上限の範囲内で旅客運賃等を定め、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」(3項)

したがって、鉄道事業者が運賃等を設定する場合には、まずその上限を決めて国交相に申請をし、認可を得る必要がある。北海道新幹線に関する10月13日付のJR北海道による発表でも、「今回の申請は、北海道新幹線に適用する特急料金の上限について申請するものです」と記載されている。

すなわち、今回申請された特急料金はあくまで「上限」のものであって、認可を受ければこの金額を上限として具体的な特急料金を定めることになる。なぜ、確定した運賃等でなく運賃等の上限で認可申請をすることになるのであろうか。「鉄道事業法に書いてあるから」というだけでは身も蓋もない。以下その経緯を掘り下げてみる。

規制緩和で変わった運賃制度

鉄道事業法は国鉄がJRに民営化された際に施行されたが、当初は上限運賃制ではなかった。写真は旧国鉄新幹線運行本部ビルと旧国鉄本社、旧東京駅(写真:髙橋義雄/PIXTA)

まず、現行の鉄道事業法第16条で採用されている「上限制」は、鉄道事業法の施行当時は採用されていなかった。

鉄道事業法はJRが発足した1987(昭和62)年4月1日にそれまでの日本国有鉄道法と地方鉄道法に代わって施行されたが、運賃等には「総括原価方式の下での認可制」が採用され、上限額でなく確定した運賃等を申請・認可するものとされていた。

しかしその後、1996(平成8)年3月の閣議決定にかかる「規制緩和推進計画」の一環として1997(平成9)年1月から新しい旅客鉄道運賃制度が実施されることになった。そこでは、運賃等の認可方法が変更され、「総括原価方式の下での『上限運賃制』の導入」「『ヤードスティック方式(基準比較方式)』の強化」「手続きの簡素化・合理化」などが実行されている。

一連の規制改革の流れの中で、公共交通機関の料金を適正に制御するという目的を確保しつつ、他方で上限の範囲で機動的な運賃等を導入可能にするなど鉄道事業者の自主性の拡大を図り、運賃等の規制に要する負担も軽減したのである。これに応じて鉄道事業法も1999(平成11)年に改正され、運賃等の上限を申請・認可するものとされるようになった。

そして、この運賃等の上限を認可するにあたっては、上記の「総括原価方式」と「ヤードスティック方式」により、鉄道事業法第16条第2項が規定するとおり、「国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしなければならない」こととされている。

では、鉄道事業法第16条第2項にいう「能率的な経営」と「適正な原価」、「適正な利潤」を考慮する際に用いられる「総括原価方式」や「ヤードスティック方式」とはいかなるものであろうか。そして実際にその方式によってどのように上限額を算出していくのであろうか。

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