フランスは原発テロの悪夢にうなされている 自爆覚悟のテロは、防ぐのが難しい

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襲撃された原発の被害がTVなどで報道されれば、多くの市民が恐怖を感じるだろう。そうすれば原発反対の世論が形成さる可能性は高い。またテロリスト側がドローンや突入部隊にビデオカメラを装備させて、実況放送を行うなり、動画を散布すれば更に効果は拡大するだろう。

原発に対する攻撃が懸念されれば、観光も大打撃を受ける。フランスは外国人観光客8300万人が訪れる世界一の観光大国である。対GDP比は7%と極めて高い。外国人観光客が激減すればフランス経済は大きな打撃を被ってしまう。

フランス政府が全ての原発を即座停止するとは思えないが、攻撃を受けた原発及び、防御が難しい原発を幾つか止めれば、電力の供給は不安定になる。フランスは原発で発電した電力をドイツに輸出しているが、これを止めて国内需要を優先して賄おうとすれば、ドイツとの外交問題にも発展するだろう。

フランスの原子力政策も揺さ振られる

テロを受けて、原発の停止や原発中止の発電を見直すことになればフランスの原子力政策は大きな見直しをせざるをえない。例えば発電を原子力から火力などの通常の発電所に切り替え、既存の原子炉を廃炉にするならば、建設費と燃料代に莫大な費用がかかる。

太陽光発電などのいわゆる「持続可能な発電」を採用するならばコストは更に膨らむ。ただでさえ高いフランスでの工業生産コストは更に高いコストを強要されて国際競争力が減じるだろう。そうなれば、外国企業は撤退も加速し、失業問題は更に深刻になるだろう。むろん、フランスから電力を買っているドイツも影響を受け、電力政策の見直しを迫られるだろう。

いずれにしてもフランスのみならず、EU諸国は深刻な打撃を受ける可能性がある。恐らくフランス政府も原発に対する警戒を強めてはいるだろうが、長期にわたって相応のサイズの警察、内務省に属する国家憲兵隊、軍隊の部隊を張り付けておくわけにはいかないし、張り付けておけば相応のコストもかかる。これを永続的に行うのは難しい。

現状フランス政府がどれほどの防御を原発にほどこしているかは明らかではないが原発に、攻撃に対する抗堪性を上げるための工事やドイツのラインメタル社が提案している、防御システムなどの導入な必要だろうが、これまた原発のコスト増大に繋がる。また防御力を上げて、原子炉を守り切っても、先述のように攻撃を受けたという事実だけで世論が動く可能性は否定出来ない。

フランス政府にとって原発防御は極めて頭の痛い問題だろう。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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