「究極の数学」は驚くほどエレガントで力強い 青木薫が味わうNHK数学ミステリー白熱教室
フレンケルは言う。この方法はちょっと見えにくい。だから普通は気がつかないかもしれない、と。そう、そうなのだ! 数学は、ちょっと見えにくいところに隠れている。けれども、いったん気がつけば、そこからエレガントでパワフルな世界が広がっていくのだ。
番組の冒頭に置かれたこの「糸巻き法」のエピソードは、身近な材料を使った、誰にでもわかる、ごく簡単な話である。しかし、このエピソードはきっと、全4回の講義のなかで、通奏低音のように響き続けるのではないだろうか。そんな予感がする。
ラングランズ・プログラムとは?
さて、こうした魅力的な前置きに続いて、話はぐいぐいとラングランズ・プログラムに向かって進んでいく。ラングランズ・プログラムは、従来は互いに関係がないと思われていた数学の領域間に、ミステリアスなつながりがあるのではないか、そして究極的には、数学のすべての領域はひとつに結びつくのではないか、という壮大なビジョンだ。
フレンケルはそれを説明するために、ゴッホの「月星夜」のジグソーパズルを持ちだした。
袋を開けて、パズルを机の上に広げる。ただし、数学者にとってのパズルには、完成図というものがない。最終的にどんな絵が見えてくるのか、わからないというのだ。ひとりでパズルに取り組むのは大変だから、大勢の数学者がよってたかって、できるところからパズルを合わせていく。やがて机の上には、あちらに少し、こち らに少しと、つながったピースができてくるだろう。
もしかしたら、最終的にこれら全部がつながるのだろうか。そんな思いが数学者の胸に浮かびはじめる。
とはいえ、数学者は何も、「なんだかつながりそうだから、つなげてみようかな」といった、気まぐれな思いつきであちこちに散らばった領域をつなげようとしているわけではない、とフレンケルは番組中で力説していた。
というのも、もしもそんなつながりがあれば(すでに証明されているものもある)、あちらの領域では超難問だったものが、こちらの領域ではエレガントに解決される、といったことが起こるのだ。そちらの領域では、どんな意味があるのかわからなかった問題が、別の領域で、やおら重要性を発揮することもある。ミステリアスなつながりの存在を明らかにし、「数学の大統一」を目指すことには、現実問題として、途方もなく大きな意義があるのだ。
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