「究極の数学」は驚くほどエレガントで力強い 青木薫が味わうNHK数学ミステリー白熱教室

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このたびの連続講義では、「数論」「調和解析」「幾何学」という、三つの領域のつながりについて語る予定だと言う。これらは一見すると関係のなさそうな分野である。それをつなぐための、鍵はなんだろうか。ここでフレンケルは、少しももったいをつけることなく、ずばり本質に切り込んだ。その鍵は「対称性」だ、と。

ここでわたしは思わず膝を打った。そうでしょうとも、対称性でしょうとも! フレンケルがこれから何を話しだそうとしているのかは、わたしにはわからなかったけれど、「鍵は対称性にあり!」というのは、絶対そうだよね!と思えたのだ。

というのも、実は対称性は、数学と物理学の関係においても鍵だったのだ。過去においてもそうだったし、現在も重要な「鍵」であり続けている。

数学と物理学の微妙な関係

数学と物理学は、長い歴史の中で、近づいたり離れたりしてきた。両者が活発にお互いを刺激し合っていた時代は、ひとりの人物が数学者と物理学者を兼ねてていることも珍しくはなかった。

ところが20世紀の初め頃から半ばを過ぎる頃まで、両者の関係は冷めていた。物理学者は、過去の数学者の仕事から、自分の仕事に使えそうな道具を借りてくるだけ。数学者は、自然相手に苦闘している物理学者を尻目に、我が道を爆走していた。

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しかし、そんな20世紀にさえ、両者のあいだには、何かミステリアスなつながりがあるに違いない、と思わせるような証拠だけは、ごろごろと転がっていたのである。そんな証拠の多くは、「対称性」に関するものだった。物理学者が、目の前の混乱をなんとか理解しようと、対称性という鍵をドアに差し込んでみる。すると、魔法のようにドアが開き、目の前にシンプルかつエレガントな数学的理論が立ち現れる、ということが繰り返されたのである。

次回(11月20日(金)NHK Eテレで23時より放映)、フレンケルはまず、数論の分野における対称性について語るという。対称性と言われて、多くの人がまず思い浮かべるのは、雪の結晶ではないだろうか。雪の結晶の対称性は、幾何学という分野の話だ(☆という図形の性質を考えるわけだ)。

では、数論の分野の対称性とはなんだろうか。フレンケルは、十九世紀フランスに生き、夭折した天才、エヴァリスト・ガロアが引き起こした革命について語るという。それは、幾何学(☆みたいなもの)ではなく、方程式(ax2+bx+c=0みたいなもの)の話だ。そこにどんな対称性があるのか。難解といわれるガロア理論を、いったいフレンケルはどんなふうに語るのか、授業を見るのが楽しみだ。

青木 薫 翻訳家

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あおき かおる

1956年、山形県生まれ。京都大学理学部卒、同大学院博士課程修了。理学博士。翻訳家。主な訳書にサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『宇宙創成』、ブライアン・グリーンの『宇宙を織りなすもの』、マーシャ・ガッセンの『完全なる証明』、ローレンス・クラウスの『宇宙が始まる前には何があったのか?』など、専門の理論物理学を活かしたものから、数学、宇宙物理学まで、科学書をもっとも美しく訳す訳者としてファンは多い。「幅広い層に数学への興味を抱かせる本を翻訳して、数学の普及に大きく貢献している」として2007年度の日本数学会賞出版賞を受賞している。著書に『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』がある。

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