日本の電力会社は規制の不確定性とコストの増大により困難が長引く《ムーディーズの業界分析》
ヴァイス・プレジデント シニア・クレジット・オフィサー 廣瀬和貞
日本の電力セクターは2011年に発生した東京電力・福島第一原子力発電所事故による大きな影響を引き続き受けており、信用力にも依然として下方圧力がかかっている。
ムーディーズはこのたび、電力6社(中部電力、中国電力、北海道電力、北陸電力、関西電力、九州電力)(いずれも原発を保有)の格付けA1をA3へと2ノッチ、また、電源開発株式会社(J-Power)の格付けAa3をA1へと1ノッチ、それぞれ格下げした(格付けの見通しはいずれもネガティブ)。
今回の格下げと、その見通しをネガティブとしたのは、従前に比べ不確定な規制環境が継続していること、各社がコストの増大に十分かつタイムリーに対応するための電力料金引き上げを実施できていない、もしくはその方針ではないこと、財務力の悪化が続いていること、社債市場での資金調達が行われていないことを反映したものである。
電力セクターに関するムーディーズの見方を紹介する。
●日本の規制の枠組みは電力会社を支援する安定的なものではなくなった
日本の規制環境は、オーストラリア、フランス、シンガポールといった国々と比較した場合、もはや、最も安定的で信頼性があり、予測可能性の高いもの、とは見なされなくなっている。とはいえ、韓国、マレーシア、タイなど、規制が確立途上にある多くのアジア諸国や、米国の多くの州における規制制度と比べれば、依然として、業界側が高水準の支援を期待できる状況に戻る可能性は高い。
しかし、電力会社のコスト回収方法に関する政治的介入、業界再編に関する議論、およびこれらの課題に関する全般的な不確定性が、この業界の信用力を大きく圧迫している。
電力会社に対する規制環境がこのように予測可能性の低いものへと変化した理由は、福島原発事故後に、規制当局、業界、国が置かれた特殊な状況によるものである。それは、業界のみならず日本経済全体に影響を与える。このプロセスがもたらす下方リスクが、引き続き格付け見通しをネガティブとする主な理由となっている。