日本の電力会社は規制の不確定性とコストの増大により困難が長引く《ムーディーズの業界分析》

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●電力会社は事業費用や投資のタイムリーな回収がいっそう困難に

電力会社がコストを顧客に転嫁する能力は、従前と比較して制約されており、今後もそうした状況が続くであろう。コスト予測が極めて不確実であるため、電力会社は、電力料金の引き上げという課題に直面するであろう。コストの増大は、電源構成の変化(低コストの原発から、より高コストの火力発電へのシフト)、原発の再稼働に向けて、より厳格な安全基準を満たさなければならないことや、既存原発の廃炉の場合に想定されるコスト増、原子力損害賠償支援機構への負担金に伴うものである。

規制当局は、これらのコストの全額を電力会社がタイムリーに顧客へ転嫁することに消極的である、とムーディーズは考えている。発生したコストを漏れなくタイムリーに回収する能力は、規制電力会社の信用力において重要な要素であり、その能力が低いと見られ続ける場合、信用指標が悪化し、格付けがさらに圧迫される。

日本における原子力の位置付けは、低下しているものの依然として重要である。ムーディーズは引き続き、日本の原発の一部は今後12カ月程度以内に再稼働するとの見方をとっている。原子力は低コストで二酸化炭素低排出のベース電力を提供している。またこの問題については、天然資源の少ない日本にとっての国家安全保障の観点からも考察している。ただし、再稼働は慎重を期して段階的に実施され、また古い原発に関しては再稼働されない可能性があると考えられる。

●財務指標は悪化しており早期の回復は考えにくい

コストの増大により、原発を保有する日本の電力会社はいずれも収益性が大幅に悪化している。最良のシナリオの下でも、コスト増大、利益の予測可能性の低下、タイムリーな電力料金引き上げの可能性の低下により、長期にわたって財務指標が圧迫されるものとムーディーズは予想している。また、既存原発の一部については償却の加速も考えられることから、バランスシートのレバレッジはさらに高まる可能性があろう。

表1

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