「ゴミ山の寝床で、インスリン注射を打ち…」 壮絶なゴミ屋敷で闘病する60代男性が《"孤独な部屋"から脱出できた》ワケ

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男性の職業は病院勤務の検査技師である。大学卒業後から一貫して医療現場に携わり、血液検査や心電図、生理検査などを担当してきた。患者の命に関わるミスが許されない職務であり、精神的な負荷は大きかった。また、勤務体系も過酷だという。

「夜中に呼び出されることもよくあります。一晩に3回も呼び出されたら、実質的に寝ていないのと一緒です。身体が持ちません。帰宅しては呼び出され、また帰宅しては呼び出される。21時や22時に帰宅して、それから何度も呼び出され、翌朝7時には家を出る生活でした。睡眠時間すら確保できません」

家中を埋め尽くすペットボトルの山は、生活インフラの停止に伴う結果でもあった。

ゴミ屋敷
洗面所や浴室もゴミが扉を塞いでおり、入れる状態ではなかった(写真:イーブイ)

「自分でお茶を沸かして飲む習慣がないので、飲み物はすべてペットボトルです。もう生活がこんな状態ですから、お湯を沸かす余裕もありません。給湯器もとっくの昔に壊れていますが、修理業者を呼ぶことができないんです。業者が家に入れば、この惨状を見られてしまう。恥ずかしい話ですが、直そうにも平日はほとんど家にいないので、結局そのまま放置してしまいました」

壊れているのは給湯器だけではない。前述したようにエアコンも5年ほど前に故障したままとなっている。日本の酷暑を扇風機1台でなんとか凌ぐも、限界に達した際はビジネスホテルへ避難することもあった。

給湯設備が機能しないため、入浴は外で済ませてから帰宅する。男性にとってこの家は、ただ「寝に帰るだけ」の場所となっており、住居としての機能はほとんど失われていた。

ゴミ屋敷
キッチンに大量に積まれていた缶詰めのゴミ(写真:筆者撮影)
ゴミ屋敷
唯一の生活スペースだったゴミ山の寝床には、テレビや小型扇風機などが、すぐ手に届く場所に置いてあった(写真:イーブイ)

かつての結婚生活はツラく、長いものだった

しかし、この部屋でもかつては家族4人で暮らしていた過去がある。現在、40歳近い2人の子どもとは、ほとんど交流がないという。子どもたちは、この部屋の現状を一切知らないままだ。

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