三菱重工がMRJに全力で挑む"真の意味" 「国産機が飛ぶ」という感動話だけではない
サプライヤーへの発注という面では、ボーイングよりエアバスのほうが苦慮する傾向も見られる。エアバスは、フランス、ドイツ、スペイン、英国という4カ国の企業が合併してできたという経緯があるため、主要なサプライヤーもこれらの国々から優先的に選定される。日本のサプライヤーがエアバスの主要機体部位を手掛けていない背景には、こうしたエアバス側の事情もあるのだ。
サプライヤーの選定には、資源外交的な側面もうかがえる。たとえば、747‐8のパイロン(エンジン取り付け部)の製造は、プレシジョン・マシーン・ワークス(米国)が担当するが、材料のチタンの調達には、ホン・ユアン・アビエーション・フォージング・アンド・キャスティング・インダストリー(中国)が当たっている。
チタン資源国である中国を意識しているとみえなくもない。事実、ボーイングはもうひとつのチタン資源国であるロシアからも大量のチタンを購入している。
近年は、ボーイングとエアバスの中国市場取り込みがエスカレートしている。ボーイングはラダー(方向舵)、前方ドア、自動緊急脱出装置など、787の構造部位の約10%を成都航空機工業など中国の航空機メーカーに発注したと言われる。エアバスは中国企業と合弁で、天津に中国国内向けA320の最終組立工場を建設してもいるのだ。
ものづくり復活のヒントは、MRJにあり
このように航空機は政治的、経済的にも日本に影響を与えるものだが、筆者は、MRJが日本のものづくり復活のカギになると考えている(詳しくは拙著『日本のものづくりはMRJでよみがえる!』でも解説している)。
もちろん、MRJをどんどん売れば景気がよくなるとか、航空機産業こそが日本の製造業を支えると言いたいわけではない。
確かにMRJはライバル機に比べて圧倒的な燃費性能を誇り、なおかつ居住性にも優れた、すばらしい機体である。順調に飛行試験が進んでいけば、世界的なベストセラー機になっても何の不思議もない。それでも、MRJ1機種による年間の売上高は、前述のとおりせいぜい2500億円程度と見込まれる。2023年の航空機市場規模予測が2.4兆円なので、その1割というのはもちろん大きな金額ではあるが、約60兆円ある自動車産業に比べたら大したことはない。
それでも筆者は、以下の2つ理由でMRJが日本のものづくり復活のカギになると考えている。
ひとつは、MRJのような航空機の製造には日本の強みが集約されていること。もうひとつは、グローバル市場を攻略するためのヒントが隠されていることである。このふたつのポイントは、航空機産業のみならず、他産業へも応用が可能だ。こうした意味で、MRJは単に三菱重工業の業績や日本の航空機産業の規模拡大につながるというだけにとどまらず、日本にとって非常に重要な意味を持つのである。
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