「修士2年の春に、抑鬱状態になりました」
Sakiさんは淡々と語ります。
「就活も終わった。研究も一段落した。授業もない。やることがなくなって、暇になったんです。でも、暇になると人間は余計なことを考える。『人生このままでいいんだろうか』『会社でやっていけるんだろうか』『自分が役に立たない人間だとバレてクビになるんじゃないか』……そんな不安がずっと頭の中をぐるぐる回っていました」
相談できる相手もおらず、思考はどんどんネガティブな方向へ向かいました。4月から2〜3カ月は、「精神的にひどく落ち込んだ」とSakiさんは言います。
「その3カ月で、会計士やパイロット、司法試験の受験など、さまざまな可能性を検討する中で、ふと思ったんです。18歳の時、自分は逃げた。あの時の選択をやり直せるとしたら?……医学部を受け直そう、と」
なぜ医師なのか?
なぜ医師だったのか。1つには、Sakiさん自身の「人生の優先順位が変わった」ことが大きかったようです。
「2〜3年上の優秀な研究室の先輩が休職しているのを見て、人間が幸福に生きるために必要なのは健康だと実感しました。肉体と精神、両方の健康に貢献できる医師という仕事には価値がある」
もう1つの理由として、彼は職業の「普遍性」を徹底的に考察したといいます。それは『どこ』で『いつ』、『誰』の役に立つか、という3つの視点です。
「1つ目の『どこ』は、場所です。エンジニアはほぼ都市圏の仕事ですが、人間の人体構造はどこの国でも変わりません。医学や肉体の仕組みを学ぶことで、医師は、大西洋の孤島であれ、南極であれ、世界中のどこに行っても求められる仕事です」
続けて彼は、時間軸である『いつ』についてこう語ります。
「エンジニアはここ20年で出てきた仕事なので、また20年後あるかわかりません。でも医師は1万年前も、現在も、そして1万年後も、人類がいる以上は需要がある。時間的に永遠に価値がある仕事です」
そして最後の『誰』は、価値を提供する相手のことだと語ってくれました。
「エンジニアは富裕層がさらに富を蓄える仕組みで、貧困層を救い上げる仕事ではありません。一方で医師は、富裕層か貧困層かを問わず、人類であれば誰にでも価値を提供できます」
「どこで、いつ、誰に価値を提供できるか。その普遍性を考えたら医師が最も魅力的だと思い、8月はじめくらいに医師になろうと決めました」


















無料会員登録はこちら
ログインはこちら