カルメンさんは長年働いてきた証しとして得た厚生年金で、つつましいながらも穏やかな日々を送っている。年金生活のための、節約のアドバイスも聞いた。
「まず前提として都営団地に暮らしているから、この金額でも余裕を持てます。定年後の家賃は、現役時代よりも安くなりました。収入に応じて家賃の額が変わるからです。家賃を低く抑えることは、老後の生活では一番大切だと思います。
それと、日々の生活費の節約のコツは、自分がいくらなら暮らせるのか、最低ラインを知っておくこと。私が50代の頃、自分が最低いくらで生活できるのか興味を持って、実験してみたんです。節約しながら家計簿をつけてね。そうしたら月に10万円でも生活できることが分かった。
年金の繰り下げの決断をしたのも、その経験があったから。65歳の定年時から受給してしまうと、年金額が月に10万円に満たないので、それでは暮らせないと分かっていたんです。2年間受給を繰り下げて、今は11万。受給までの2年間は、貯金を取り崩していました。
最低必要な生活費は10万円。その感覚が身についているから、今では家計簿をつけるだけで、自然に節約できます」
50代のときに、生活のミニマムコストを知ることができたことで、節約のベースができた。それからは、表計算ソフトで、家計簿をしっかりつけるようにしている。生活のプランを立てて、記録していくところに、ケアマネジャーとしての仕事の経験が役立っているようだった。
節約生活のなかでも、削らないものとは?
「今はそこまでカツカツじゃなくて、生活費の他に貯金もしているし、遊んだりもしていますよ。フラフープしたり、皿回ししたりね」
お願いすると、皿回しをやってみせてくれた。楽しそうな表情は子どものようで、彼女が本来持つ溌剌とした明るさや、茶目っ気が垣間見える。
「フラフープも皿回しも、YouTubeを見て『楽しそうだな』と思ったら気軽に買ってみる。そういった楽しみや、健康維持に必要な出費は削らないようにしています。
今年の夏は、あまりの暑さに熱中症になってしまって。それから空調も節約しないようにしました。冬はコタツを活用するなど、工夫はしてますけれど。体調を崩したら元も子もないし、余計にお金がかかるから」
インタビューの終盤。カルメンさんはお茶を淹れ、お菓子を勧めてくれる。しばらくして落ち着いてから、思い出したように言った。
「削れないもの、他にもありました。孫へのプレゼントや、子どもに残すお金も、削れない。
子どもは『そんなの要らないよ』って言うんだけど。でも、少しでも残したい。孫にも不自由な思いはさせたくない。シングルマザーだったけど、ちゃんと育ててきたんだって、自分で思いたいから。



















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