「食欲が落ちて、元気がなくなって、そのまま亡くなってしまったんです。フェレットは腫瘍が多い動物だと聞きました。この子もそうだったのではないかと思って……」
遺体を持ってこられた飼い主さんは、そう話されました。
たしかにフェレットは、3〜4歳から副腎腫瘍やリンパ腫、膵臓腫瘍(インスリノーマ)などが増える傾向があります。インスリノーマという腫瘍では、腫瘍細胞がインスリンを過剰に分泌して低血糖を起こし、結果、ぐったりしたり、食欲が落ちたりすることはあります。
飼い主さんは、そうした病気についてもよく調べて知っておられるようで、愛情を持ってフェレットを育ててきたことうかがえました。
十二指腸にあった「丸い物体」
遺体を受け取り、病理解剖を進めていくと、指の爪ほどの大きさの丸い磁石が1個、フェレットの十二指腸をふさいでいました。腸壁には穴があいており、腹膜炎を起こしていました。
一通りの解剖と組織の病理検査を行いましたが、飼い主さんが懸念されていたような腫瘍は見つかりません。最終的に、このフェレットは誤飲した磁石によって腸壁に穴が開き、腹膜炎を起こして死亡したことが判明しました。
病理診断の結果をお伝えする際、飼い主さんに心当たりを尋ねました。飼い主さんは「思い当たることがある」と言います。
年末年始はイベントが多くあり、冷蔵庫に100円ショップで購入した磁石を使ってメモや書類をいくつも貼っていたそうです。飼い主さんが改めて確認すると、磁石のうちの1つがいつの間にかなくなっている――フェレットは何かの拍子に、その磁石を誤って飲み込んでしまったのでしょう。
磁石の誤飲は、ペットにかぎらず人間の乳幼児でも、しばしば重篤な症状を引き起こします。
今回のケースのように、たった1個の磁石だけでも死につながります。また、複数の磁石を飲み込むと、磁石が消化管の中でくっついて、大きな塊になったり、磁石を介して腸と腸がくっついたりすることもあります。
結果、大きな塊の磁石が消化管をふさぎ、消化管壁を壊死(えし)させたり、最悪、穴を開けたりすることがあるのです。


















