浩一は顔面蒼白になり、震える唇でどうにか声を出す。
「す、すみません、僕の勘違いです」
と、先ほど小突いてきた上級生に、今度は平手で頬を打たれた。浩一は打たれた頬を手の平で押さえ、すると涙が溢れてきた。
「おいおい、速水(はやみ)、後輩をいじめちゃだめだろ。泣いちゃったじゃないか」
「悪りぃ、つい手が出ちまったよ」
「アハハハハ」
浩一は頬を腫らして、泣きながら謝罪を続けた。速水というリーダー格の少年は、浩一の胸ぐらをつかむ。
「おまえ、顔は覚えたかんな。今日のことチクったらただじゃおかねぇかんな」
「はい、すみません、誰にも言いません……」
自宅へと歩きながら、鼻を啜りつつ子供のように泣いた。もう頬は痛くないし、歯も折られてはいない。だからどうして涙が溢れてくるのか、自分でもよく分からなかった。
親父の信頼
その晩、再び子供部屋同盟へアクセスした。
速水先輩には、誰にも言うなと忠告されている。でも浩一は今日の出来事を、余すことなくレポートに記した。
万次郎は、本当の動機が欲しいと言っていた。追記レポートで、今度こそ同盟に認められるかもしれない。
ファイルを送信すると、十分と経たないうちに万次郎から返信がきた。
──42番さんの案件は、我々、子供部屋同盟に否決されました。またの機会によろしくお願いします、アディオス。
浩一は思わずスマホをベッドへ放り投げた。
やっぱりここはただの釣りサイトだ! 最初から復讐を代行する気なんてないんだ!
翌日、学校帰りに朝日堂に立ち寄り、今後は店をどうするのか親父に訊いてみた。
「まだ検討中だけどな、このまま売上が減少して、万引きも続くようじゃ、やっぱり店を畳むしかないかもしれんな。この場所で三十年以上は営業してきたが、もう町の本屋ってのはみんなにあまり必要とされんのかもしれんな」
浩一は愕然とした。
──チクったらただじゃおかねぇかんな。
それでも思い切って口にする。
「最近、北中の三年生グループが本屋に来てるでしょう。僕は彼らが、万引きしてるんじゃないかって思うんです……」
「あぁ、速水君とその友達だろう?」
「え、親父さん知ってるんですか?」
「いや、町内会の子供野球で見かけた程度だけどな。速水君は前にうちで野球の参考書を買っていたし、万引きするような子には思えんけどねぇ」


















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